第14話 王都での出会い

 見渡す限りの人で溢れ、王都は活気に満ちていた。

 少し先に見える城が俺達の興奮を掻き立てる。

 

 門を潜った先、門の脇にある発着場に馬車は停車した。

 俺達は馬車から降りて、舗装された道を踏みしめる。

 

「ここまでありがとうございました!」

 

「いえいえ、礼には及びませんよ。それでは」

 そう言うと、御者さんは馬を連れて馬小屋に入って行った。


「なぁなぁ、王都を探検しないか!?」

 レイブンの提案に俺は力強く頷く。


「もちろん。だけど、その前に宿屋に荷物を置いて来て良いか?」


 二人は走り出し、人混みの中に消えていく。

 その一方で、クリムウッドは忘れ去られたように馬車の発着所に取り残されていた。

 

「全く……あいつら……学園生活楽しんでこいよー!」


 呆れつつも、クリムウッドは小さくなっていく二人の背中を見送った。


 ――レイブンと俺は王都を駆け回る。

 行く当てもなく駆け回っているだけだけど、それが楽しかった。


「おい、レイブン!あれギルドじゃないか!?」


「本当だ!」


 奥に冒険者らしき人達の溜まり場になっている建物を見つけた。

 近づいてみると、その建物は三階建て王都のギルドだった。

 カミーユの街のギルドよりもずっと大きい。


「良いよなぁ、ピートは……入学してすぐ十二歳になるもんな」

 ギルドの看板を見つめるレイブン。


「俺はレイブンが十二歳になるのを待つけど?」


「本当か!?」


「そりゃ、一人より二人の方が楽しいだろ?」


 突然、レイブンが俺に抱きついてくる。


「やめろレイブン、気色悪ぃ」


 周りの冒険者からの生温かい視線が突き刺さり、この場所から早く去りたくなった俺は、レイブンと駆け足でその場を去った。


 どこへ行こうかと話になり、城を見に行くことにした。


 地図によると、城は街の中心にあるようだ。


 近づいて分かったことだけど、城は小高い丘の上に建っていて、高い塀で囲まれていた。

 ――近くで見る城は見上げるほど高かった。

 陽の光によって光り輝く白色の壁が眩しい……。

 

 城の周りは騎士団が警備をしているようだ。

 騎士団をたくさん見かける。


「おい、ピート!ここから中が見れるぞ!」


 門の隙間から騎士団の訓練を覗き見ることができた。


「ほら!そこ!手を抜くな!」


 赤髪の女性が、部下をビシバシと鍛えている。

 あれ……あの女性は森に助けに来てくれた騎士団の人じゃないか?

 腕立て伏せをサボる騎士団を叱責する真っ直ぐな姿が、あの森での記憶を蘇らせる。

 

「レオナ隊長!団長がお呼びです」


「兄上が?何の要件だ」


 一人の兵士に声をかけられ、赤髪の女性はすぐに城の中へと入っていった。


「つまんなそうだな」

 

 隣で見ていたレイブンがぽつりと呟く。


 指導役の赤髪の人がいなくなっても、騎士団達の腕立て伏せが続けられていた。


「自由が無さそうだよなぁ」


「ピート、学園見に行こうぜ」


「見にいくか」


 俺たちの王都探索は終わらない。

 地図によると学園は王都の西側にあるみたい。

 これから三年間通う場所……。

 元の世界だと中学校にあたるのかな?


 ――学園にたどり着くと、城門の様な豪華な校門に白塗りの校舎が俺達を出迎えてくれた。

 

「ここに通うのかぁ」 

 キラキラした目で校舎を見つめるレイブン。

 

「まるで貴族みたいだな」


「確かに……金持ちみたいだ」


 俺達二人はこれから始まる学園生活に期待を寄せる。

 今の気分はお金持ちだった。


「あなた達が通う学園はそっちじゃないわよ」


 突然、俺たちに話しかけてくる声が聞こえた。

 声の方を振り向くと、ブロンドで長い髪の青い目をした少女がローブを着て、近くに立っていた。


「学園生が通うのはここだろ?」

 レイブンは、ルミエール王立学園と書かれた看板を指差した。


「その校舎は貴族専用、あなた達が通うのは隣のあれよ」


 少女が指差した方を向くと、豪華な校舎の隣に年季の入った校舎があった。


「うっそだぁ……ここに学園って書いてあるのに?」

 俺には分かる。この少女は嘘をついている。


「あのねぇ……本当なんだってば」

 少女は呆れた顔で返事をした。

 

 俺は認めたくなかった。

 あの年季の入った校舎が俺たちが通う学園だという事実を。


「あれは貴族専用の校舎なの……ほらあの校舎を見て」

 

 少女はそう言って俺たちに近づいてきた。

 少女に言われた通りに奥を見る。

 白塗り校舎の壁に王冠のマークが書かれていた。


「奥に見えるマークは貴族の生徒に渡されるバッヂのマーク。そのバッヂ、あなた達は貰った?」


「「貰ってない……」」


「それなら、あなた達が通う校舎はあのボロい方よ」


 そんなぁ……。

 豪華な校舎に通いたかった……。


 俺達は校門の前で項垂れた。


「ほら、元気だしなって。校舎は違っても、学園の授業は貴族と平民も変わらないんだから!」


 そう言われてもなぁ。

 初めに見た校舎が貴族専用だったから、ショックが大きいよ。

 あ、図書館も貴族専用だったらどうしよう。

 

「図書館が貴族専用ってことはないよね……」

 恐る恐ると聞いてみる。


「図書館は誰でも入るわよ、校舎の裏にあるわ」

 その返事に胸を撫で下ろした。


「ところであなた達、名前は?私はマリーダ」


「俺はピート」


「レイブンだ」


「私もここに通うから、学園で会えるかもね」


 そう言い残してマリーダは去っていった。

 

「マリーダも王都探索してるのかな」


「どうだろ?」

 

 マリーダが去った後、二人で学園周りを探索していたら、貴族専用校舎近くの木の下に奇妙な穴を見つけた。

 人が通れそうな穴だ。

 俺はレイブンを呼んだ。


「なぁレイブン、この穴の先に何があると思う?」


「しらね。でも探検してみようぜ」


 二人で穴の中へと入っていく。

 穴の中は薄暗くて結構広かった。

 どこまでも続いていそうである。


「どうする?魔物が出てきたら」


「その時は逃げるしかない」

レイブンは自分が剣を持っていないことをアピールした。

 

 しばらく進んでいると、先に明かりが見えてきた。


「出口だ!」


 俺たちはその明かりまで走った。


 明かりに近づくにつれ、鼻をつく匂いがしてくる。

 やがて俺たちは汚水が流れる洞窟に出た。


「くっさ!なんだここ」


「なぁピート、戻らないか?臭すぎるぞ」


「いや、まだだ。何かがある気がするんだ」

 洞窟の奥に宝物があるのは物語によくある話だ。

 きっとこの洞窟の先にも何かがあるはず。

 

 鼻を押さえて先へ先へと進む。


 レイブンは激臭に苛立ち始めた。

 後ろを歩くレイブンの小言が止まらない。


「ほら見ろ!レイブン、ここに梯子があるぞ!」

 この先にお宝が眠っている気がした。

 

 俺の頭上から梯子が垂れていた。

 レイブンは俺を押し除けると、梯子を登り始めた。


「やっと、この臭さからもお別れだ!」


 梯子を登るレイブンの姿がどんどん小さくなっていく。


「扉があるぞ、ピート!」

先を登るレイブンの声が響いてきた。


「開けてくれ!何かあるはずだ!」

レイブンを追って俺も梯子を登る。

 

「外だ!」


 扉の向こうはどこかの路地裏に繋がっていた。

 目の前には怪しげな店があって、水晶玉が並べてあった。


 その店の奥からマリーダが出てきた。


「ちょっと!何してるの!?」


「「探検」」


「下水道を歩いてきたの?うわっ!くっさ」


 どうやら臭い匂いが服に染み付いてしまったらしい。


「勝手に下水道に入ったら騎士団に連れて行かれるわよ」


 その言葉に俺たちは一瞬、体が固まる。


「俺はレイブンが入ったから入っただけ」

 

「俺は戻ろうぜって言ったからな!」


「でもついて来ただろ?」


「出口を探していたからな」


「戻ればよかったじゃん」

 

「大体、ピートのせいだろ!」


「いーや。レイブンが先に入ったから、レイブンの方が悪い!」


「こ、こ、で……さ、わ、ぐ、な」

 マリーダは手のひらを二人に向ける。


「【フリーズ】」


 マリーダの手から放たれた魔法は、二人の足だけを凍りつかせた。


「足が!」

 なんだこれ、動かない。


「あんた達ねぇ……周りをみなさい」


 周りを見渡すと、数人の大人が俺たちを静かにみていた。


「それ以上続けると、本当に騎士団が来るわよ」 


 冷静になった俺達は、互いに振り上げた拳を下げた。


 マリーダは小さくため息をつくと、俺達の足元の氷を火の魔法で綺麗に溶かしていく。


「「すみませんでした」」


「騒ぎが大きくなる前に止めたんだから、感謝してよね」


「「ありがとうございました」」


「良い?騒ぎを起こさずに帰って」

 マリーダの鋭い眼光が突き刺さる。


「「……はい」」


 俺たちは静かに現場を後にした。

 日が暮れ始め、長く伸びた影が二人の小さな背中を映していた。


「ごめん、レイブン」


「俺も……ごめん」


 あのまま騒ぎが大きくなっていたら、俺達は捕まっていたんだろうか……。


 こうして俺たちの王都初日は、ほろ苦い思い出となった……。

 


 



 



 


 

 

 

 


 



 


 

 


 


 

 

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