第18話 王立図書館

 入学してからしばらく経ち、学園にも慣れ始めた頃、やっとテスト期間に入った。

 テスト期間に入ったということは、図書館を利用できるようになったということ。

 だから俺は、じいちゃんから貰った本を手に図書館に向かっていた。


 王立図書館は、貴族校舎と平民校舎を繋ぐ連絡通路から入れる。

 本を手に持った生徒達とすれ違いながら、連絡通路を進む。


 二人の兵士が立つ大扉。

 この先に図書館がある。

 

「やっとだ」


 俺は兵士に会釈をして扉を開けた。


 中は本の森だった。

 本棚が何列も並んであって、一階から三階まで吹き抜けになっていた。


 紙の匂いが鼻から入ってくる。

 これだけの本があれば、あの本について何か分かりそうだ。

 でも、どの本を読めばいいんだろう……。


 とりあえず、気になったタイトルの本を読んでみるか。


 本棚を片っ端から物色し、関係ありそうな本を手に取っていく。

 『魔道具研究』、『ドワーフの技術史』、『勇者伝説』、『神器について』、『世界の不思議』、『言語研究』。


「こんなところかな」


 本を両手に抱えて、読書机にドサっと並べる。


 まずは……『魔道具研究』から読んでみるか。

 内容は魔道具についてだった。魔素を使用して道具を作ると、その道具に様々な効果を付けることができるらしい。


 本についての情報は何もなかったけど、魔道具というものに興味が湧いた。

 ここに書かれている“空飛ぶ船”って飛行機とは違うのかな?


 『ドワーフの技術史』

 この本の内容はドワーフの技術がどのようにして発展していったかについて書かれていた。


 本とドワーフは関係なかった。


 『勇者伝説』

 勇者が魔王を倒すまでの話を物語にして、まとめているみたい。

 これは……後でじっくり読む用だ。


 『神器について』

 この世界には神様から与えられた三つの神器が存在する。「聖杯」、「聖剣」、「禁書」。

 

 禁書!?何か関係していそうな名前だ。

 これはじっくり読もう。


 『世界の不思議』

 世界に存在する様々な不思議な現象について書かれてあった。


 冒険の楽しみがなくなっちゃうから、これは読まない。


 『言語研究』

 この本は、あらゆる言語についての研究がまとめられていた。だけど、じいちゃんから貰った本に書かれている言語については書かれていなかった。

 でも……これだけの言語が存在するんだって発見はあった。

 特にエルフ語の発音が面白い。


 あの本は一体なんの言語で書かれているんだろうか。


 一通りサラッと読んでみて、気になったのは神器の本だけだ。

 早速開いて読んでみる。


「禁書」についてはどこに書いてあるんだろうか。

 

 読み進めると、「聖剣」については何ページも書かれているけど、「聖杯」や「禁書」についてはあまり書かれていなかった。


「禁書」についてのページはたったこれだけ……。

 指で「禁書」について書かれているページを挟んでみると薄すぎてペラペラだ。

 

「禁書」についての説明を読んでみると、今まで「禁書」を読んだ人は誰も存在せず、その中身については不明であるという短い説明だけ。

 残りのページは、「禁書」に何が書かれているかの考察だけしか書かれていなかった。


「はぁ……」

 大きなため息が出る。

 手掛かりが見つかったと思ったんだけどなぁ。

 

「禁書」という単語が分かったことで一歩前進したとは思うけど。

 あの本が「禁書」なのかは分からないけど、別世界に行ける本だから普通の本でないことは確かだ。


 次は、「禁書」について書かれている本を探してみるか。


「禁書」についての本を探したけど、「禁書」はおろか神器についての本も少なかった。

唯一「聖剣」についてまとめられた本だけは何冊もあった。


「ピート?何してるの?」


 振り返るとマリーダがいた。


「なんだマリーダか、ビックリしたぁ」


 集中している時に話しかけられたから驚いてしまった。

 本を広げた机を見たマリーダは、目を見開いた。


「あんたって勉強するの!?」


「勉強っていうかまぁ」


 マリーダは本のタイトルに目を通していく。


「なるほどね、何か調べ事をしてるのね」

 マリーダは何を調べているのか気になる様子で無言で俺を見つめてくる。


 その空気に気まずくなった俺は、“黒い本”を見せた。


「この本なんだけど。マリーダはこれが何か知ってるか?」


 渡された本を興味津々に開くマリーダ。


「いや、知らないわ……何語で書かれてるのこれ」


「その本、じいちゃんから貰ったんだけど……何が何だかさっぱり」


「禁書」のページが開かれた本をマリーダに渡す。


「それでさっき調べていたら、「禁書」って単語を見つけたんだけど、そこから進まなくてさ」


 マリーダは情報を整理しているのか、腕を組んで考えている。


「この本は不気味ね。私は古代の言語を少しだけ知っているけど、それも違うみたい……」


「古代の言語」


「そう、古代の言語。私たちが話している言語にも古い言葉とか新しい言葉ってあるでしょ?でもね、大昔の人族が使っていた言語じゃないのよ、この本に書かれている言語は」


「『言語研究』に載っていなくて、古代の言語でもない言語か」


 訳が分からなくなってきた。


「こんな本を持ってるじいさんは何者なの?」


「冒険が好きな普通のじいちゃん」


「嘘よ、絶対」


 そんなはず無いって顔をしてるけど、本当に普通のじいちゃんなんだよな。


 でも、なんでそんな本を持ってたんだ?

 うーん。考えれば考えるほど頭が痛くなる。


「そういえば、マリーダはなんでここに?」


「勉強しにきたのよ。あんた……テスト勉強やってる?」


「これからやる」


 俺はやる時はやる男である。


「テストで悪い点取ったら、二年生のクラス分けに響くわよ」


 え?何それ、初めて聞いた。


「もしかして、テストの結果でクラス分けされるのか?」


「そう」


「そのクラス分けって何か影響ある?」


「下のクラスだと難しい授業を受けられなくなるわね」


 なるほど……難しい授業かぁ。

 今週は筆記試験で来週が実技試験。

 「禁書」については、来週また調べに来るか。


「お願いなんだけどさ……勉強を教えてほしい」


「あんたも?」


「というと?」


「さっきレイブンにも頼まれたのよ」


 レイブンもか。

 まぁでも、俺たち二人が勉強で頼れる友達はマリーダしかいない。


「お願いします!」

 俺は頭を下げた。


「はぁ……しょうがないわね。いいわよ」


 よし!これで筆記テストはなんとかなる気がするぞ。


「ありがとう」


 これでテスト問題は解決したことだし、本でも読み漁るか。

 寮に帰ったら、とりあえずこの『勇者伝説』でも読もう。

 本物の勇者の物語……楽しみだなぁ。


 誰かの視線を感じる。

 見上げるとマリーダが俺を見ていた。


「決めたわ。今日からみっちり勉強しましょう」


「はい」


 ――俺とマリーダは図書館を出ると、レイブンを誘って教室に集合した。


「さて、やるわよ。まずは『魔法学』から」


「魔法は俺できるぞ!」


 そう言うと、レイブンは教室の窓を開け、校庭に向かって【ファイア】を放った。

 そのレイブンの突拍子もない行動にマリーダは呆れる。


「これからやるのは魔法“学”。実技テストじゃないの」


「そうか」

 レイブンは大人しく席に座った。


 『魔法学』は魔法の発動条件や、魔法の名前などを学ぶ勉強で、最も理解できない勉強。


「まずは、【ファイア】の魔法陣を書いてみて」


 そう、魔法陣。

 これが本当に意味不明で難しい。


 完璧な魔法陣さえ書ければ、呪文を覚えなくても、想像力が乏しくても、魔素さえ貯められれば、誰でも魔法を使えるようになるらしい。


 俺には魔法陣の必要性が理解できなかった。

 

 とりあえず、教科書を見ながら見よう見まねで魔法陣を描いてみる。


「こんな感じか?」


「ピートって絵が下手なのね」


「そんなに下手かぁ?」


「だって、円なのに角があるし、文字も潰れていて読みにくいわ」


「でもこれの方がカッコいいだろ?」


「描き直して」


 俺は描いた魔法陣を渋々消した。


「俺も出来たぞ!」


「レイブンは上手いわね」


 おい、やめろレイブン。

 俺を置いていくな。


 俺はしばらくの間、悪戦苦闘していた。

 描いては消して、納得出来るものが完成するまでこだわり続けた。

 そして遂に、俺は教科書と瓜二つの魔法陣を完成させることが出来た。


「どうだ!俺だって描けるぞ!」


 マリーダは俺の魔法陣を見て合格サインをくれた。

 でも……


「これ描くのに三十分はかかりすぎ。魔法陣を描くだけでテストが終わってしまったら、点数取れないわよ」


 た、たしかに……。


「あんたもよ、レイブン。時間かけすぎ」


「これ以上、早く描いたら頭が爆発して手が壊れるぞ」


「壊れないわ、安心して」


「二人とも、もっと早く描けるように練習しましょう。そうね、五分ぐらいかしら」


「五分は絶対無理!」


 マリーダの発言を否定すると、マリーダは「見てて」と言い、ものの一分ぐらいで魔法陣を描きあげた。


「ほら、五分もあれば描けるよ」


 へーマリーダってすごいねー。

 マリーダぐらいになると、魔法陣は五分もあれば余裕で描けるのかー。

 

「二人とも五分を目指そうね」

 マリーダは笑顔でそう言った。


 その日からテストまでの一週間、死の物狂いで魔法陣を描きまくった。

 徐々に、魔法陣を描き終えるまでの時間が短くなっていく。

 俺たちは確かな手応えを感じていた。


 そしてテスト当日を迎える……。

 


 


 

 


 




 

 

 

 

 

 


 



 

 

 

 

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