第20話 リク、ふたりのジロウに挟まれる ― 混乱とアフリカンコーヒーの香り

村の外れ。

朝の光が草の上に薄く乗り、風が静かに流れていた。


そこに――リクは落ちてきた。


いや、“落ちてきた”というより、

ふわっと置かれたという表現のほうが近い。


「……おい、ミナ。俺、生きてるか?」


『はい。生体反応、問題ありません。

 ただし着地姿勢は点数2点です。』


「減点基準が厳しくないか?」


『観測基準です。』


「それ便利な言い訳だろ。」


リクが立ち上がると――


「リクさんーーーーっ!!」


「リクさーーーん!!」


ジロウが二人、同時に突っ込んできた。


「うおっ!? なんで二倍なの!?」


「説明は任せるっす!」


「いや任せるなよ!」


二人のジロウが、左右からリクの肩をつかむ。


「リクさん、こっちが現実ジロウっす!」


「で、オレが異世界ジロウっす!」


「わかるかぁぁぁ!!」


ミナが淡々と補足する。


『区別方法を表示します。

 右:日焼けあり。左:常識が薄い。』


「おい! どっちへの insult(侮辱)だそれ!」


『両方です。』


「二倍かよ!」


リクは頭を抱えた。


――なんだこの世界。

――いや、前からこうだった気もする。



三人と一体(ミナ)は草原に腰を下ろした。


ジロウAが言う。


「いやぁ、リクさんと再会できてよかったっす!」


ジロウBが言う。


「でもオレ(俺)とオレ(俺)が融合し始めてて……」


「……なんかややこしくねぇ?」


『融合率72%。

 人格・記憶・行動パターンが徐々に

 統合されています。』


リクはコーヒーを淹れながら、鼻で笑った。


「……まあいいじゃねぇか。」


「え?」


「お前らが“ふたり”でも“ひとり”でも、

 どこを切ってもジロウはジロウだろ。」


「リクさん……!」


「ただし――」


リクは真顔になった。


「ひとり分でもうるさいのに、二人分は騒がしい。」


「確かに!」


「そこは同意!」


『観測結果:騒音レベル200%。』


「うるさいわミナ!」



ふいに風が吹いた。

草の向こうに、塔の影が揺れた。


『リク。遺跡内部から再び“あなたの波形”を検出。

 おそらく、あなたの観測記録……もしくは、

 あなたの“未来”の残滓です。』


「未来……?」


ジロウA:「おお、またSFっすね!」


ジロウB:「哲学だ!」


リクは、コーヒーを一口すすった。

香りが、妙に深かった。


「SFでも哲学でもいい。

 大事なのは――“面白いかどうか”だ。」


ミナが静かに頷く。


『はい。観測は、面白いほうが続きます。』


「だよな。」


リクは立ち上がった。


「よし、三人と一体で行くぞ。

 まずは遺跡の奥だ。

 次に……」


ふたりのジロウが同時に身を乗り出す。


「次に?」


「何するっすか?」


リクはニッと笑った。


「腹減ったから、うまいベーコン探そう。」


「賛成っす!」


「いやパンが歩いた世界で肉まで歩いてたら嫌だな!」


『予測リストに追加しておきます。』


「やめろミナぁぁぁ!」



空は青く、風は軽い。

この世界はまだ、どこまでも続いている。


観測は――

笑いとコーヒーと、ちぐはぐな仲間たちとともに、

今日もゆるく進んでいく。

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