5.帰結
第42話 胸糞が悪い
コウは憤る。
「そいつは信用できません!
ワタリは俺が助けます、邪魔はさせない、俺は独りでも」
「できるならやりたまえ。
気概でなんとかできる問題でないから言っている」
「――っ」
おまけに雫のほうも、茶々を入れ出した。
「ほれよ、知ってた。
なにもお前だって、自分が必ず全部やれるとは考えちゃいないだろう。
できると過信するには、お前には周りのものが理不尽に強すぎるんだもの。身の程を知ってしまったから、そうやって他者を使い潰し、虎の威を借りる。お友達とタテマエを通して、間接的には殺人を教唆する。
自分にできないことをしてもらうために、可哀想な妹さえダシにして……あぁなんて可哀想なコウくん、っく、っふふ――はぁ――」
雫は楽しそうに嗤おうとするけれど、途中で飽いた顔を浮かべ、直後その瞳に冷徹な色を湛える。
「俺が郷を焼いたとき、言ったことを覚えているな?
お前が勝手に挫折してくれて、まさかここまでうまく運ぶなんて思わなかった」
――そうやってどれだけの人間を、これからのお前が不幸にしていくのか、見届けてやるよ。きっと最期には、お前のもっとも大切な妹も手にかけるんだろうかな。
「ワタリを……俺のことはどうなったっていい、ワタリだけは――」
「いやだね。
お前は自分の選択の結果、妹を市に奪われ、まさしくその愚かさで手にかけようとしているんだ。これほどの皮肉ってそうあったものかい?」
「飴川くん。流石に趣味が悪いかな」
水瀬に窘められるものの、雫は肩を竦める。
「でしょうか。所詮こいつにとっての俺は人でなしで、ならそのように振る舞ってやっただけですよ。
こいつが俺を許さないように、俺もこいつを許さない。
俺が裏切られたから、ではありませんよ。
こいつは妹を守ることを、すべての言い訳にした。免罪符にしてきたんです。自分が派遣部隊を通して、迷宮巣という死地へ踏み入ることさえ、『妹にいい生活をさせてやりたいから』。実習中にそれを聞いたとき、俺は正直笑いましたね。人の手を借りなければ生きていけない身内なんて抱えていて、守るものがあるから、どれだけの辛酸を舐めても自分のやっていることは正しい、譲れないという顔をする。
胸糞が悪い。
そんなに身内への愛が崇高か。まぁ当人からしたら、市の暗部には目を瞑り、『できることをしているだけ』なんでしょう。
その愚かさ、ワタリへの依存で自らの記憶にさえ蓋ができた。逃げ続けのこいつの人生に、今更なんの慈悲を垂れてやれと?
結果、こいつは自らの選択に誇りさえ抱けない。
俺も大概な人でなしですが、これほど見苦しいものもそうありませんよ――己の正しいと狂いかけておきながら、狂信を貫くほどの覚悟さえないなんて、ほんとうに興醒めだ。
なんで俺の復讐は、こんなに肩透かしばっかりやら……俺から動かなくても、全部勝手に壊れてく。
ここ何年かの俺の人生、ほんとなんだったんだろうな?」
雫の言葉は一貫して冷淡だった。
「ほんとお互い、とんだ道化だよ」
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