盛れた姿を君に

 俺の名前は高竹光立たかたけひかる。あだ名はタケミツ。


 想い人、野々宮夜昼ののみやよるさん、ヨルさんから「あんた気持ち悪いのよ」と言われた高校二年生だ。


 今は彼女に相応しい男になるべく日々努力しているんだ。


 ヨルさんの素晴らしさを語ろうと思うと俺は言葉に詰まってしまう。


 語るべきことが多すぎるからだ。


 ああ、素晴らしいヨルさん。


 彼女の魅力の一つとしてその美しさがあるのは当然なんだけど、この言い方をするとまた顔の話しかよと皆は思うかもしれない。


 だが俺が見ているのは美に対する意識だ。


 彼女はメイクをし髪を整え服を整え視線を走らせ言葉で俺をねじ伏せる。


 そんな彼女のことが大好きだ。


 ヨルさんのメイクについて考えているときに気がついた。


 俺もメイクをしてみるべきだと。


 俺は100均でメイク道具を買い集めデパコスのお姉さんに習い特殊メイクを極めるために映画制作に関わった。


 「進撃の恐怖カバ」という映画でヒロインに襲いかかるカバに扮しているときに本来の目的を思い出してクランクアップした。


 一人では脱ぐことができないカバの特殊メイクに悪戦苦闘しているときに彼女が声をかけてきた。


 ヒロイン役のヒポル。


「あなたいい演技しているわね。私と別の映画にも参加してみない?」


 俺は断ろうと思ってこう言った。


「カバ」


 彼女はそれを肯定と受け取ったのか俺を連れて新たな映画の撮影に向かった。


 何本かの映画を撮影し、宇宙戦闘機で敵母艦に突撃するシーンの最中に特殊メイクが崩れ本来の俺の姿を表した。


「それが本当のあなたなのね。今度はその姿で映画を撮りましょう?」


 俺はその誘いを断った。


 すまない、すっぴんの顔で撮影するのは嫌だな。


 素顔で映画になんて出演してしまったら明日から学校に行くのが恥ずかしくなってしまうじゃないか。


 俺は高校生なんでね。


 大人しく生きて行きたいのさ。


 だが安心してほしい。君のその演技力ならきっと素晴らしい映画になるさ。


 俺は監督と出演料についてのディベートバトルに勝利してから帰宅した。




 その日俺は自分に違和感を感じていた。


 まるで自分の身体でないかのような、ふわふわと宙に浮いているかのような感覚。


 先日次元が分裂する現場に居合わせたときに近い感じだ。


 目眩、咳、喉の痛み、節々の痛み、39度3分。


 様々な要因から気がついた。


 これは発病していると。


 俺は病院に行き入院し特効薬の開発のために製薬会社の研究室を訪れた。


 実験室と思われる部屋で両手足を固定され何らか薬を投与されそうになったとき本来の目的を思い出して脱出した。


 彼女と出会ったのはそのときだ。


 検体番号0012番。


 彼女は牢獄のような部屋で壁に埋め込まれていた。


 俺は彼女を閉じ込めている壁をこじ開けて救出し一緒に施設を脱出するために奔走した。


 ツイスターゲーム、合成生物との死闘、背中文字当てなど数々の試練を乗り越え最後の扉の前にたどり着いたとき彼女はこう言った。


「ここを出ても一緒にいてくれる?」


 俺はその誘いを断り最後の扉を開いた。


 すまない、俺には心に決めた人がいるんだ。


 君は可愛くてスタイルもいい、なにより合成生物を蹴りの一発で倒せるその力があればもっと相応しい相手が見つかるはずさ。


 俺と彼女は背を向け合って別々の方向に走る。


 まだ少し熱っぽかったので白い羽根の君から貰った異世界の薬を飲んで就寝した。




 俺は学校の教室の扉に手をかけたときに走った衝撃で気がついた。


 静電気だと。


 俺は手を洗い静電気除去シートに触れ静電気を吸収する装置の開発に着手した。


 開発チームで試作装置の実験を行おうとしているときに本来の目的を思い出して開発を中止することにした。


 すまない、この装置は危険だ。静電気だけでなくすべての電気を吸い取ってしまう。


 そんな俺の決定に反対したのが彼女だった。


 科学者のマツカ。


「中止なんてありえません! この装置はお金になります。軍事兵器として」


 彼女の眼を見て危険を感じた俺は装置を拳で破壊し、研究データも全て削除した。


 泣き崩れる彼女に俺はこう言った。


「君にはこんな危険な研究は似合わない。美しい君には愛の研究のほうがお似合いさ」


 潤んだ瞳で俺を見つめる彼女を置いて俺は研究室を出た。


 出たときに走った静電気の痛みに耐えながら俺は帰宅した。




 メイクを覚え病を治し静電気の痛みを耐えた俺はヨルさんに会いにいくことにした。


 今日はきっちりとメイクをしてきた。


 メンズのメイクもなかなかいいじゃないか。


 最初にメイクしたときは「ピエロみたい」と小学生のコッコちゃんに怖がられたが彼女の指導で上達できた。


 顔に自信がつくと全てのことに自信が持てるな。


 今日は緊張せずにヨルさんに会えそうだ。


 待ち合わせ場所にヨルさんがいるのを見つけた俺は声をかけた。


「俺ってかっこいいだろ?」


「気持ち悪い」


 ヨルさんはそのまま去ってしまった。


 ふむ、どうやら俺はまた調子に乗ってしまったようだ。


 こんな短時間でメイクを極めるなんて出来ないということだ。


 そんなことに気づかせてくれるなんて。


 やっぱり僕の初恋は最高だ!

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