ACT.4
一瞬の静寂。
誰もが息を呑んだまま、彩花を見つめていた。
すると美咲が、机をバンッと叩いて立ち上がった。
「そうだよ! 彩花には娘がいるの!」
クラス中がざわつく。
「え、マジで?」「ウソでしょ…」「中学生で子供??」
ざわめきは波のように広がっていった。
だけど美咲は一歩も引かなかった。
腰に手を当て、胸を張り、金髪ツインテールを勢いよく揺らす。
「だから何? だからって彩花を笑うの? 馬鹿にするの? あんたらにそんな権利ある?」
沈黙。
誰もが目を逸らし、言葉を飲み込んだ。
美咲は彩花の肩をガシッと抱く。
「彩花は、みんなよりずっと強いんだよ。たった一人で子供を産んで、育てて、学校まで来てるんだから。そんなの尊敬以外ないでしょ!」
彩花の胸の奥が熱くなった。昨日まで「秘密がばれたら終わり」と思っていたのに、目の前で堂々と自分を庇う存在がいる。そのことに、足元から震えが込み上げる。
「……美咲……」
声がかすれる。
美咲はにかっと笑い、彩花の耳元で小声で囁いた。
「相棒って言ったでしょ。あたし、裏切らないから」
――教室はまだざわついているけど、その輪の中心で、彩花は初めて「味方がいる」と感じた。
ざわめきが広がる教室に、重い足音が近づいてきた。
「……ちょっと、みんな落ち着きなさい!」
振り向くと、妊娠でふっくらしたお腹がブレザーの上からもはっきりわかる、黒のパンストに包まれた脚の女教師が立っていた。声は低く、しかし確固たる力を帯びている。
「彩花さんのことをあれこれ言う前に、よく考えなさい。人の家庭事情を笑ったり、噂にするのは許されません」
クラス中が一瞬、息を呑む。教師の視線は一人ひとりをまっすぐに射抜くようで、ざわめきは徐々に収まっていった。
教師はゆっくり歩み寄り、彩花の肩に手を置いた。
「彩花さん、ここまで黙って頑張ってきたのね。立派です」
彩花の胸がぎゅっと熱くなる。涙が込み上げそうだったが、必死にこらえた。
美咲は彩花の隣で小さく頷き、にっこり笑った。
「ほらね、相棒にはちゃんと守ってくれる大人もいるんだよ」
教師はそのまま教壇に向かい、クラス全体に告げる。
「これからは、お互いに尊重し合いなさい。誰かを馬鹿にしたり、秘密を暴こうとしたりするのは、絶対に許しません」
ざわめきは完全に消え、クラスは静まり返った。彩花は美咲と顔を見合わせ、ほんの少しだけ微笑んだ。
――この出来事で、彩花と美咲の絆はさらに強くなる。
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