ACT.5
放課後、校舎の階段を駆け上がると、屋上の鉄の扉がきしむ音を立てて開いた。夕暮れのオレンジ色の光が、校庭のコンクリートに長い影を落としている。風がツインテールを揺らし、彩花の制服のスカートをふわりと舞わせた。
「はぁ……はぁ……やっと来れた」
彩花は屋上の柵に手をつき、深く息を吐く。胸の奥がざわつくのは、クラスでの騒動のせいだけじゃない。心臓の奥で、小さな秘密を抱える重みがずっしり残っている。
美咲は彩花の隣に腰掛け、足をぶらぶら揺らす。金髪のツインテールが夕陽に反射して、まるで炎のように光っていた。
「……でも、やっと話せるね、相棒」
にっこり笑いながら、美咲はポンと彩花の肩を軽く叩く。
「相棒……か」
彩花は微かに笑みを返す。胸の奥の緊張が少し解ける。
「昨日、美咲が庇ってくれたおかげで、クラスが変に荒れなくて済んだ……ありがとう」
「当然でしょ。あたしは相棒のこと、簡単に見捨てたりしないよ」
美咲の瞳は真っ直ぐで、少し茶目っ気も残している。
彩花は俯いて、屋上の風に髪をなびかせながら小声で言った。
「これからどうしたらいいんだろう……娘のこと、秘密にしながら学校生活を続けるのって、やっぱり無理なのかな」
美咲はしばらく考えてから、肩越しに夕陽を見つめ、落ち着いた声で言った。
「無理かもね。でも、あたしたちが一緒なら、どうにかなる。誰にも迷惑かけずに、守りながら生きる方法、探そう」
彩花はその言葉に胸を打たれ、ゆっくりとうなずく。風が吹き抜け、二人の制服のスカートとタイツをそっと揺らす。
「ありがとう……美咲、本当に」
「相棒♡」
ツインテールがひらりと揺れるたび、微笑みが夕陽に溶けていった。
屋上の風が少し冷たくなってきた。彩花は娘のことを考えながらも、目の前の美咲に向き合った。夕陽が二人の影を長く伸ばす。
「じゃあ……まず考えよう。学校でバレないようにするにはどうする?」
彩花はノートに鉛筆で小さくメモを取りながら言った。心臓が少しずつ落ち着いていく。美咲は腕を組み、眉をひそめて考え込む。
「まず、登下校は目立たないようにする。保育園の送迎も時間をずらして、人目につかないルートで行くのがいいんじゃない?」
彩花は頷き、ノートに矢印を書き込む。
「授業中は……?」
美咲は少し笑って、「そりゃ普通にするしかないでしょ。でも、休み時間とか、変に聞かれたら答えをぼかす。あたしがフォローするから」
「フォローって……?」
彩花は驚きながらも、美咲の表情を見る。
「もし誰かが彩花のことを聞いてきても、『プライベートなことだから』って遮るとか、逆にあたしが話を逸らすとか。絶対守る」
美咲の瞳は真剣で、冗談めいた笑みは消えていた。
「それと、学校の行事や写真も注意ね。制服姿で娘が写らないように、カメラに近づかないとか」
彩花はメモを取りながら、心が少し軽くなるのを感じた。
「あと、娘のことを絶対秘密にしたいなら、他の人と一緒に行動するときは、あたしがうまく守る。彩花、無理に隠さなくていいんだよ」
美咲は言いながら、肩に手を置き、軽くポンと叩いた。
彩花は深呼吸をして、微かに笑った。
「……ありがとう、美咲。これなら、やっていけるかも」
夕陽が二人をオレンジ色に染め、屋上の風が静かに二人の髪を揺らした。
――これから始まる学校生活、二人で力を合わせて守るための作戦が、今、固まった瞬間だった。
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