第2話
情報課課長である少女から今回二人が担当する事件に関する資料を貰った後、二人は外へ出てある人物を待っていた。
『あー、あー、灯さん冷さん聞こえますか?』
「大丈夫です」
「問題無い」
その間にオペレーターを務める
丁度確認が終わったとき一台のボックスカーが来て二人の前で止まった。
助手席側の窓が開き運転席から「よっ」と女性が手を上げる。
「お疲れ様です
冷が挨拶をするのと同時に後部座席のドアがゆっくりと開いた。冷と灯はそこに乗り込む。
「おつかれぃ〜!つっても君らはこれから仕事だろ?アタシがしっかり送り届けてやるから任せておけ〜?」
轟は車に乗り込む二人を振り返って言う。
「よろしく」
「おうよ!」
灯が短く挨拶すると轟も短く返した。
「シートベルトはしたかぁ〜?」
「もちろんです」
轟の問いに冷が答える。
「んじゃあ出発だ!」
轟はそう言って車を発進させた。
武力警察ポラリスは一応民間組織という立ち位置だがほぼ公的機関と変わらない仕事をしている。しかしやはり民間組織という立場上サイレンを鳴らしたりパトカーと間違われるような車やバイク等は使えない。
その為こうして車両系統のギフトを持つ者が実際に現場で犯人確保を担当する者の送迎を行うことになっているのだ。
勿論免許を持つ者であれば確保担当の者が運転しても構わないのだが、そうすると有事の際に車を乗り捨てることになる。
だが車両系統のギフトであれば即収納が可能なタイプが多い為対応しやすいのだ。
轟も元はトラック運転手としてギフトを活用しつつ働いていたが今はポラリスで戦闘員送迎や物資の運搬等を担当している。
「ん?なんか来てるな」
「なんですか?」
車が走り出してから暫くしたところで轟がフロントガラスを覗き込みながら声を上げる。
冷が身を乗り出して見てみると確かに遠くから何かが来ていた。人のように見える。
「先輩、あれ何か分かります?」
「ん〜?」
冷が下がり今度は灯が身を乗り出してみると、
『そいつが今回のターゲットです!』
「えっ?」
轟が車の屋根部分をオープンするボタンを押す。
灯は座席を足場に開き切った車の屋根から外へ出た。車の上は風が強い。
「まじすか!?」
続いて冷も外へ出ると車は緩やかに減速する。
「行くぞ」
「了解っす!」
灯はターゲットのいる方向へ突進する形で向かっていく。腰にはいつの間にか刀が現れ左手が添えられている。
冷は未だ車の上に立ったままだが、その手には制服警官の帽子が握られていた。
冷はそれを被り唱える。
【旧時代警察──警告】
するとたちまちパトカーや白バイが轟の車の周囲に現れ、けたたましいサイレンを鳴らす。
「さっすが冷くん」
轟は運転席でそう小さく呟くと、フロントガラス越しに灯の方を見る。
灯は逃げる犯人の頭上を飛び越えそのまま拘束する為犯人の腕を掴もうとする。
「ちっ」
だがその手は何も掴めず、犯人は灯をすり抜けて逃走する。
「やっぱそうだよな」
灯はすぐさま犯人の背を追い始める。
【追跡】
灯に続くようにして冷のパトカーや白バイがサイレンを鳴らしつつ追従。
轟の車もそれらに混じって走り出した。
『犯人は主線道路を北に逃走中。その先には犯人の潜伏先の一つである白鐘ビルがあります』
美海のオペレートに従い轟は白鐘ビルへの最短ルートへ向かう為離脱する。
冷は轟の車から自身のパトカーへと乗り移るとそのまま灯と共に犯人を追っていく。
『進路予測、これまでの犯人の行動パターンから次の道を右手』
美海のオペレートを聞いた冷は一つ前の道からパトカーを行かせる。
犯人は予測通り右手側へ曲がり逃走する。
『進路予測、直進。その後すぐ建物の間を左手。猿川通りへ出ると思われます』
犯人は直進。
冷は車両を全て猿川通りへ回し、自身の乗るパトカーもそれに続く。
犯人が建物の間に体を滑り込ませるのを灯も追いかける。
犯人はゴミ箱や積まれた段ボール等を倒して灯を足止めしようとするが灯はそれらを悉く回避し減速することなく追っていく。
『進路予測、猿川通りを右手。約10m先に予測目的地白鐘ビル』
猿川通りへ出ると犯人は予測通り右手へ向かう。灯はその視線が白鐘ビルの看板に向いていることを確認し追うスピードを少し緩めた。
ビル前にはいつの間にか車種を変えたらしく轟の軽自動車が待機しており、その周りには冷のパトカーがサイレンを切った状態で青色灯を灯しながら待ち構えていた。
「くそっ………!」
犯人はパトカーの姿を認めると何故かUターンし灯の方へ向かって行く。
「あーあ」
冷がそう小さく呟くように溢した。
「うああああああ!!」
犯人はヤケを起こしたのか叫びながら走り、灯へと拳を振り上げた。
【抜刀──虚還し】
しかし犯人の拳が灯に届くより先に灯の刀は犯人の体を左下から右上へと逆袈裟斬りにした。
キンッと刃が鞘に仕舞われる音と共に犯人は気を失い地面に倒れ込む。
「目標確保。帰還する」
『はっ』
灯は美海へそう報告すると気を失っている犯人を担ぎ上げ、轟の軽自動車へと積み込んだ。
「相変わらず凄いっすね〜先輩のギフト」
冷はいつの間にかパトカーや白バイを全て消滅させており、警官の帽子を脱ぎながら後部座席へと乗り込むと轟へそう声を掛ける。
「だなぁ〜やっぱかっけぇ女は惚れるよな!」
轟は楽しげに目を輝かせながら笑顔でそう答えたが、その言葉を聞いて冷は途端に冷めた表情になった。
「惚れるのはちょっと分かんないっす」
「えぇ!?惚れるだろ!」
轟は思わずというように後部座席を振り返る。
「いや分かんないっす」
「はぁ!?」
2人が謎の言い合いをしている間に灯は助手席へと乗り込み仮眠を取り始めた。
「おっといけねぇ。さっさと帰るか」
「はーい」
眠り始めた灯を見て轟と冷は言い合いを止め、轟の運転する軽自動車は犯人を乗せて本部ビルへと戻った。
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