ホワイトキラー

解月冴

第1話

ジリリリリリリリ!!

ワンルームに響き渡る目覚ましの音に獅月灯しづきともりは叩き起こされた。

「ん〜?」

寝起きの回らない頭で今日は何月何日何曜日で今は何時だったかと考える。

が、いまいち思い出せない。昨日は確か……。

ドンドンドンドン!

昨日の出来事から日付と曜日を思い出そうとしていると部屋のドアが思い切り叩かれる。

「先輩!起きて下さい!」

わざわざこの時間に来て騒音を出す奴は灯の後輩である犬塚冷いぬづかれいしかいない。

「ん〜………ああ、うん、今起きたよ、起きた起きた」

ベッドの上に座ったまま灯は答える。

「先輩!?起きてます!?」

しかしドアの向こうにいる冷には聞こえなかったようで大声でそう聞いてくる。

「うるせー………」

ドア越しでもはっきりと聞こえる程の声量にいつものこととはいえ灯は呆れる。

「分かった、分かったから先に行ってろ!私はまだ寝起きなんだよ」

仕方なくベッドから降りつつ少し声を張って言った。そうしないと普通は聞こえないからだ。

「ああ、先輩起きたんですね!良かった………というか、今日は俺一人じゃ行けませんって」

安心したような声の後に何やら引っ掛かる事を言われて灯は首を捻る。

今日は何かある日だっただろうか。

「まさか先輩忘れたんですか?今日は仕事の日ですよ、しーごーと!」

まるで老人を相手にしているような言い方で言われ灯は少々頭にきたが、ここは先輩として何も言わないでおこうと決める。

別に後輩が怒ると怖いとかそういう訳では決してない、そう決して。

「ああ………仕事………そうだっけ?」

未だ寝起き感の抜けない気怠そうな声をしつつも灯は着々と支度を整えていく。

「そうなんですよ!早く行きますよ!」

対して冷は煩いぐらいに元気だ。

「はいはい、分かった分かった」

「本当に分かってます!?」

ドア越しに後輩と押し問答しつつ支度を済ませた灯は家のドアを開けた。

「あ、先輩、おはようございます!」

冷はすっかり定位置となったドア横に相も変わらず座っていた。灯の知らないうちにいつのまにか椅子まで置いてある。

「………おはよう」

灯は家の鍵を閉め冷と共に街へと歩き出した。

「仕事の内容は?」

街を歩きつつ灯が尋ねると、冷は呆れたように大きな溜息を吐く。

「本当に忘れたんですね………まあいいです。今日は近頃頻発している連続通り魔の行方が掴めたそうなので、そいつを確保または殺処分するのが仕事です」

「了解」

灯はようやく回り始めた頭に冷の言った情報を叩き込む。殺処分が許可されているということはかなり悪質な奴なのだろう。

「あ、先輩。後であの店行きません?」

冷が街中にあるラーメン屋を指して言う。

「あ〜……まあ、時間あったらな」

灯はラーメンよりその隣にある蕎麦屋の方が気になったが、冷が蕎麦アレルギーなのを知っている為言わなかった。

そんな他愛のない会話をしながら二人が向かった先は武力警察ポラリスの本部が入るビル。

自動ドアを通り建物内に入ると人とすれ違う度に頭を下げられたり挨拶をされたりする。

「相変わらずモテモテですね、先輩」

「勘弁してくれ………」

冷は揶揄うように言うのに対し、灯は心底嫌そうにそう返す。

何と言っても灯は目立つのが嫌いだ。

だというのにこうして目立ってしまっているのはある理由があるのだが、それは今でなくともいつかは知る機会があるだろう。

冷と灯はエレベーターに乗り込み、冷は5階のボタンを押した。

続けて閉めるボタンを押そうとしたとき一人の男が駆け込んで来た。

「やー!間に合った!良かった良かった。悪いな冷、灯」

男はそう言って二人に片手を上げて謝る。

「いえいえ、たつさんの為ならこれぐらい何でもないですよ。何階です?」

冷はそう言いながら今度こそ閉めるボタンを押しエレベーターの扉は閉まる。

「同じだから大丈夫だ。またとらが先に行っちまってなぁ……慌てて追いかけてたとこなんだよ。マジ助かった、ありがとな」

冷から辰さんと呼ばれた男は困ったように頭を軽く掻きながら言った。

「にしても、相変わらず灯は愛想がねぇなぁ」

辰は灯の頭を撫で回しながら言う。

「ぅるせぇっす………兄さんには関係ないし」

辰の揶揄うような言葉に灯は若干照れつつも小さな声でそう反論した。

「ま、それもそうだけどよ」

辰はそれ以上は何も言わずに灯の頭から手を離し、丁度開いた扉の方を見た。

扉の先には広く暗めの空間が広がっており、黒いスーツに身を包んだ人らが書類やスマホ、タブレット等を手に忙しなく動き回っている。またパソコンや空中に浮くゲームウィンドゥのようなものと睨めっこしながらキーボードで何かを打ち込んでいる人の姿もある。

「虎ぁ!」

エレベーターを降りた辰がそう声を上げると、一人の男が少し遠くの方で顔を上げる。

「辰!遅ぇって!」

「おめぇがはえぇんだよ!」

辰は虎と呼んだ男の方へ大股で向かうと虎の持っている書類を覗き込み何やら話し始める。

「見つかったみたいで良かった」

冷は安心したように言って軽く息を吐くと灯の方に向き直る。

「俺たちも行きましょう」

「ああ」

冷と灯は部屋の左手側、多くの液晶が並ぶなかでも一際巨大な液晶がかかる壁側にあるデスクへ向かう。そこでは一人の少女が他職員と真剣な顔で何かを話し込んでいる。

「悪い、ちょっといいか」

灯が声を掛ける。

「ん?ああ灯ちゃんに冷く〜ん」

少女は話を中断し灯達の方を見ると、にっこりと笑い明るい声で言った。

「すいません、お話中に」

「全然!そっちのお仕事の方が大事だし!」

冷が申し訳なさそうに言うのに対し少女は笑顔で明るく返す。

「んで、二人は今回のお仕事に関しての情報をもらいに来たんだよね?」

「はい、主に現在地とギフトの情報をもらえると嬉しいんですが………」

「おっけーまかせろ!」

冷の言葉に少女は親指を立て自信あり気な表情をすると、少女のデスクにある大きめのモニターを見つめ勢いよくキーボードを叩いていく。その中で少女の周りには次々にゲームウィンドゥのようなものが浮かび上がり、そこに情報が書き込まれていく。

「いつ見ても凄いですねこれ」

冷はテンション高めに灯へ話しかける。

「まあ、やっぱ情報課課長の地位は伊達じゃないってことだろ」

灯は冷の熱を冷ますように冷静に返すが、実のところ灯もこの光景を見るのが楽しみになっていることは内緒だ。

「よーし完了!真黒まくろさんおねがーい!」

少女はエンターキーをカッコよく叩くと先程冷と灯が来る前に話していた内の一人を呼ぶ。

「お任せを」

少女は指を振りウィンドゥを真黒と呼ばれた人の前に集めると、真黒はそのウィンドゥに両手で上から下へと順番に触れていく。

すると真黒の右手にはウィンドゥに表示されていた内容がそのまま書かれた書類が次々と出てくるのだ。真黒はそれらの書類をキッチリと纏め冷に手渡した。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

冷がペラペラと捲っていく書類を灯も横から覗き込む。内容は今回二人が担当する事件に関してだが、犯人の名前、年齢、性別、住所等の個人情報から始まり、犯人の現在地や主な潜伏先等も書かれている。

「オペレーターは美海みみちゃんが担当するって」

「了解」

灯はそう短く返事をすると資料を読む冷を置いて部屋の中央辺りにいる美海の元へ向かう。

「美海」

「あ、灯さん!今日はよろしくお願いします」

美海は灯の声に気付くと耳からイヤホンを外し柔らかく微笑んで言った。

「よろしく」

灯は軽く手を上げてそう挨拶し冷を回収してから部屋を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る