第3話
ポラリス本部へと戻った一行は駐車場にてある人物と話していた。
「お疲れ様です!しかと受け取りましたのでご安心召されますよう!」
ハキハキとした固い話し方をするこの人物は武力警察ポラリス内の犯罪者管理課──通称「犯管」の職員、
「よろしくお願いします」
「お任せ下さい!」
留木は犯人に専用の拘束具を付けビル内へと運んで行った。
『皆さんお疲れ様でした』
留木を見送っているとオペレーターの
「美海さんもお疲れ様です」
『ありがとうございます。轟さんはここで離脱していただいて大丈夫です。冷さんと灯さんには課長から伝言があります』
冷からの労いに礼を言いつつ美海はそう言った。轟は「はいよ〜」と軽く返事をすると車を仕舞い本部ビル内へと戻って行く。
『ではお伝えしますね』
轟へのオペレートを切って美海が話し始めた。
『仕事が片付き次第署長室に来てほしい、大事な話があるから、とのことです』
「了解」
美海は灯の返事を聞くと明るい声で『では、お疲れ様でした』と言ってオペレートを切った。
「大事な話って何ですかね?」
本部ビルに戻りつつ冷は灯に尋ねる。
「さぁな。悪いことじゃないといいが」
そう言いつつも灯はそこまで心配していなかった。何故ならここの署長は大した事では無いときでも「大事な話がある」と言って呼び出してくるからだ。大体は娘に関することだが。
灯と冷は朝にも乗ったエレベーターに乗り込むと灯が開閉ボタンの下辺りに白いカードを翳す。
するとエレベーターは下方向へと動いていく。
階数ボタンに地下の表示は無い。
ポラリス所属の職員、その中でも一部の者だけが行くことの出来る場所。
目的の階に到着した冷と灯はエレベーターから降り長い廊下を歩いて行く。
「相変わらず長いっすね、ここ」
「ほんとなんでこんな長くしたんだよ………てか、この間署長が自分で文句言ってたけどな」
「カッコいいからとかでやっちゃうから……」
二人は文句を言いながらも長い廊下を歩き終えると扉の前に立ち言う。
「民間組織武力警察ポラリス犯罪者制圧課所属戦闘員
「同じく犯罪者制圧課所属戦闘員
「「現着致しました。入室の許可を」」
二人が口上を言い終えると部屋の中から返答が返ってくる。
「よく来た。武力警察ポラリス本部署長
すると二人の前にある扉が開き、机の上に肘を付いて手を組んで座っている人の姿が見えた。
「「失礼します」」
二人が部屋に入り扉が閉まると灯と冷は大きな溜息を吐いた。
「お疲れ二人とも………」
既に部屋にいた情報課課長、
それもそのはず。
ポラリスの署長は色々と大変な人なのだから。
「いや〜よく来てくれた!あれも毎回言ってくれてありがとうなぁ!はっはっはっはっ!!」
「声デケェ………」
「帰ってもいいですかね………」
早乙女の声で二人は早々に縁と表情を同じくした。灯に至っては耳を塞いでいる。
「まあまあそう言うな!今日は本当に大事な話があって最強の三人を呼び出したんだ。ここで帰ってもらっちゃあ困る」
早乙女は先程までの豪快な印象から一転、真剣な表情になると部屋には緊張感が漂う。
「浦部には大体のことを伝えたが改めて説明させてもらおう。今回お前ら三人を呼び出したのは先日捕らえた奴に絡んで、色々と厄介事の気配がするってのが一番の理由だ」
縁が部屋の左側にあるスクリーンにいくつかの画像を写し出す。
「まず先日捕らえた奴についてだが、罪状は〈ギフトの乱用〉〈ギフトを利用した犯罪〉。そしてこれが問題なんだが〈ギフトをばら撒いた〉というのがある」
早乙女の言葉に灯と冷の表情は険しさを増す。
早乙女に続いて縁が詳しい説明を加える。
「ギフトをばら撒くっていうのは具体的に言えば〈自身の持つギフトをコピーする〉それか〈他人のギフトを奪い取る方法の伝授〉あとはそもそもの問題として〈ギフトを複数個所有出来るようにする〉って感じ。今の所ギフトの所有数は一貫して一人一個。だから前提として、複数個所有を可能にするギフトが生まれたと考えるのが自然じゃないかって署長は思ってる」
縁は今上げた以外の具体例も含めた箇条書きのウィンドゥをスクリーンの中央に写し出す。
「確かに、ギフトのコピーや強奪が可能なギフトは前例がいくつもある。複数個所有を可能にするギフトが生まれてもおかしくない……か」
灯は自身の考えを整理するようにそう呟く。
「署長が考えてるってことは、実際にその、複数個所有を可能にするギフトっていうのを持った奴は見つかってないってことですよね?」
冷が尋ねると、縁は頷いた。
二人が頭を悩ませているところに再び早乙女が口を開く。
「まあそういう訳で、この間ひっ捕えたのはコピー出来る奴だったんだがどうにも引っ掛かることが多くてな。それで浦部に色々と調べさせてたんだが、その結果がこれだ」
早乙女の言葉に合わせて縁はスクリーンに写し出すウィンドゥを切り替える。
そこには様々な情報が羅列されていた。
「今分かってるのは組織の名前と一部構成員の名前と顔。ギフトが分かってるのは本当に一部だね、尻尾切りされそうな奴ばっかかな。目的に関しては行動観察じゃよく分からなかったし、証言もバラバラ。本当に組織なのかなって思うぐらい一貫性が無いよ」
縁はスクリーン中央に写すウィンドゥを適宜入れ替えながら説明する。
「それに、かなり情報統制がしっかりしてるみたいで、本当に全然情報が集まらないんだよね〜やっと見つけたと思ったらデマだったり上澄みだけで結局よく分からなかったり」
縁はそう言って溜息を吐く。
縁がここまで苦戦しているのは珍しい為、大変難航していることが窺える。
「縁さんでも苦戦するって余程ですね……」
冷は真剣な顔で情報の記されたウィンドゥを睨みつけるように見る。
「……………」
一方、灯は縁が説明をしている間もじっと黙り込んで何かを考えている様子だった。
「でまぁ、そんな調子だったから公表を避けてたんだが、最近になって浦部がこいつらの行動を補足できるようになってな」
早乙女の言葉に灯と冷は顔を上げ早乙女の方を見る。
「それで二人に追跡と、出来れば確保まで頼みたいんだが………出来るか?」
「「はい!」」
早乙女の問いに灯と冷は迷うことなく即答し、それに対して早乙女はまた豪快に笑った。
「はっはっはっ!お前らならそう言うと思ったぞ!ただ、まだわざわざ危険を冒さにゃならんときではない。無理だけはするなよ」
「「はい」」
早乙女の忠告を聞き返事をしたが、先程より覇気が無い。そのことに早乙女はひっそりと笑いを堪えつつ詳しい内容の説明を始めた。
「今回二人にはこの〈ギフテッド〉と名乗る組織に所属する人間の一人〈
早乙女の確認に二人が頷くと入ってきたときと同じ扉が開かれる。
「では、健闘を祈る」
「「失礼致します」」
灯と冷は署長室を出て再び長い廊下を歩く。
署長室では縁と早乙女が話していた。
「あれのこと言わなくて良かったの?」
「ん〜今はちょっとなぁ………相棒が出来て大分安定してきたところだし、出来ることなら言わないままでいたいけどなぁ………」
縁の問いに早乙女は頭を悩ませる。
「でも絶対何かしらで知ることになるでしょ。だったら、署長の口から聞いて、ちゃんと落ち着いて、向き合ってっていう時間を作ってあげる方がいいと私は思うけど〜」
そう言いながら縁はウィンドゥを全て消し部屋の出口近くまで行く。
そして早乙女を振り返りこう言った。
「ま、最終的に決めるのは署長だし、私は何も言えないからね」
そう言い残して去って行く縁を見送り、早乙女は再び頭を抱えた。
「あぁ〜も〜どーして今になってまた出てくるんだろうなぁ、こういう奴らは。お陰でストレスでハゲちゃうよ」
「それぐらいじゃハゲませんよ」
「ハゲるよ〜!」
早乙女は静かに佇んでいた秘書を相手にそう文句を言いつつも、この件に関しては誰よりも真剣に考えていた。
次の更新予定
ホワイトキラー 解月冴 @KaiTukasa
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