第8話 「洗濯したら、世界がきれいになった」

― “柔軟仕上げ”=世界浄化 ―


昼下がり。

風が気持ちいい。

トオルは今日もいつも通り――怠けていた。


「マスター、炊飯予定はありませんか?」

「今日は洗濯日だ。飯より布団が先」


「新しい作業ですね。手順を学習します」



トオルは桶に水を張り、ゴシゴシと布団を押し洗いしていた。

そこに勇者リズが走ってくる。


「マスター! 布団を洗ってるんですか!?」

「そうだ。最近魔王のカレー臭が取れなくてな」

ヴァルム「我のせいか!?」


スイが小さく電子音を鳴らした。


「新機能を提案します。――“柔軟仕上げモード”を起動しますか?」

「……なんだそれ」

「布団をふっくらさせ、ついでに世界の穢れを落とします」

「ついでのスケールがでかいな」



ボタンを押す。


スイの蓋がゆっくり開き、白い蒸気が溢れた。

風が巻き起こり、草原の空気が澄んでいく。

遠くの山にこびりついていた“魔の煤”が剥がれ落ちた。


メル「すごい! 洗剤の分子がエーテル反応を起こしてる!」

リズ「つまりどういうことですか!?」

メル「世界が“漂白”されてるのよ!!」



空を見上げると、雲が真っ白になり、

鳥たちは羽ばたきながら「ピカピカだー!」と鳴いていた(気がする)。


ヴァルム「なんという清浄……まるで地獄まで柔らかくなっていくようだ……」

トオル「地獄が柔らかくなるってなんだよ」


【世界の浄化度+300%】

【すべての呪いが“ぬるま湯”になりました】



リズが目を輝かせて言った。

「マスター! 世界がきれいになってます!」

「そうか。……布団もふわふわになったな」


「マスター、良い香りです。“太陽の香り”を検出しました」

「うん。干せたらそれでいい」


メル「待って! 科学的に説明できないのよ!?」

トオル「説明できたら、それもう日常だろ」



夜。


風呂上がりのトオルは、ふかふかの布団に潜り込む。


「マスター、今日もよく世界を洗いましたね」

「……洗ってねぇ、干しただけだ」

「はい。干すだけで、十分です」


スイの電子音が優しく鳴る。

遠くの空に、一筋の光――“柔軟剤の流星”が流れた。


トオル「……寝る」



【世界の悪意:しわ伸び完了】

【全住民の睡眠質+200%】

【布団、ふかふか】

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