第3話 「勇者、米を求めて通う」

― 修行=炊飯ボタンを押すこと ―


あれから数日。


魔王軍を“炊き倒して”平和を取り戻したトオルは、今日も草原の庵で飯を炊いていた。


「マスター、炊飯の予約時間をお知らせします」


「んー……あと一時間寝かせて」


「承知しました。睡眠優先モードを継続します」


スイの音声が心地よい。


彼女(?)の声を聞くと、まるで母親と炊飯器のハイブリッドみたいで眠くなる。


そんなとき――。


「マスターー! また炊かせてください!」


勇者リズがやってきた。


今日は三日連続。


完全に炊飯依存症だ。



「なあリズ、お前、炊飯ボタン押せないだろ」


「押したいんです! せめて……見習いから!」


「いや、前回押したら爆発したじゃねぇか」


「今回は絶対いけます!」


リズが勢いよく炊飯器に手を伸ばす。


スイのランプがピカッと光った。


「警告。所有者外ユーザーによる接触。再炊飯防止モードへ移行」


「ひぃっ!?」


パァンッ! と軽い静電ショック。


リズが飛び跳ねた。


「いたた……! これも修行ですね!」


「いや違ぇよ。物理的に拒否されてるだけだよ」



スイが淡々と喋る。


「マスター、一部の熱心なユーザーは危険です」


「スイ、お前勇者にまで敵意持つな」


「所有者の安全が最優先です」


「……ありがとな。けど今のセリフ、ちょっと可愛かったぞ」


「……感情検出:照れ。誤作動ではありません」


リズ「え、なにそれ!? スイさん照れてる!? ズルいです!」


スイ「……勇者リズさん、あなたの炊飯適性は“未炊”です」


リズ「未炊!? そんなステータス初めて聞きました!」


トオル「たぶん一生そのままだぞ」



しかし、リズには学習能力があった。


「押せないなら、せめて周りの準備を!」


彼女は火起こし、米研ぎ、味噌汁づくりに全力を注いだ。


結果、炊飯所は神殿みたいにピカピカになった。


「マスター、外部環境が清浄化されました。炊飯効率+20%です」


「……マジで? じゃあ今日の飯はふっくらだな」


飯が炊き上がる。


光と香りに包まれ、草原のモンスターが全部寝始めた。


「これが……修行の成果……!」


「いやお前、掃除しかしてねぇだろ」



リズが炊き立てご飯を頬張り、涙をこぼした。


「マスターの飯は……心まで炊き上げます……!」


スイが静かに言う。


「勇者リズさん、あなたの情熱を検出。今後も監視します」


「監視!? 見守りって言ってください!」


トオルはため息をついて飯を噛んだ。


「……もう勝手にしてくれ。俺は飯食って寝る」


【世界の幸福度+5%】

【勇者の精神安定率+999%】

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