第8章 葬儀 ― 雨に濡れても ―
目を覚ました皓太は、
いつもの皓太だった。
──そう思いたかった。
「光希に起こされる日が来るなんてな、笑」
そう言う皓太を、
俺は笑いながら見ていた。
俺も、そう思う。
その言葉を、
喉の奥で噛みしめるだけで精一杯だった。
「……いいから、早く。」
そう言って、
俺たちはホテル近くのカフェで朝飯をとった。
食べながら話すでもなく、
静かに時間だけが過ぎていく。
食後、部屋に戻って準備をし、
チェックアウトを済ませ、
駅のロッカーに荷物を預けた。
そして、
それぞれの覚悟を抱えて、
別れの場へと向かった。
言葉はあった。
確かに、あった。
けれど、それを覚えていることはできなかった。
分かっていた。
今日は、そういう日なのだと。
静かに降り注ぐ雨が、
そのことを教えていた。
──今日は、しめやかに過ごすべき日だ、と。
葬儀は、しめやかに執り行われた。
流石に、太い実家を持つ両家だ。
煌びやかと言ってしまえば台無しだが、
派手な袈裟を身につけた坊さんが、
低く、長く、経を読み上げ、
最後に説法をした。
出棺の時、俺は我慢した。
こらえられると思っていた。
けれど──火葬の時。
やっぱり、泣いた。
意味も分からず。
いや、意味は分かっていた。
ただ、それを認めたくなかった。
ただ、尊人と別れたくなかった。
ただ。
ただ。
ただ、認めたくなかった。
美奈……すまない。
俺は、そんなに強くなかった。
尊人……ごめん。
ビシッとしてない、俺。
──ごめん。
葬儀はすべて終わった。
火葬。
初七日法要。
どれも、普通だった。
あの尊人の葬儀にしては信じられないほど、
少ない人数で、しめやかに、静かに。
高大の車で駅前まで送ってもらった。
少し、何か食べるか?
なぜか俺は、そう口にしていた。
何かがあったら、何かを食べて、反省会をする。
それが、俺たちが過ごしてきた時間のルーティンだった。
それをしないと、お開きにはできない。
そんな気持ち。
だったのかな、笑。
そんな気持ち……だったんだろう。
理屈でも、義理でもない。
ただ、そうしたかった。
ただ、それだけのこと。
やや足を強める雨の中、
俺はその言葉を口にしていた。
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