第9章 後夜祭

「ミッキー、泣きすぎやって、笑。

 そんなキャラやったん? 笑」


高大がそう言う。


──ああ、実はそういうやつなんだよ、俺。


そう言われても、

肯定も否定もできず、

ただ苦笑いした。


うん、

そういうやつなんだよ、俺って。


傍で、俺の本当の姿を知る皓太は、

ただ静かに笑っていた。


高大は車だから飲めない。

それでも俺をこうして揶揄ってくる。


うん、

お前はいい後輩だ。

そして、バカだ。

礼儀知らずで、非常識で、

……それでも、いい後輩だ。


ありがとう。

お前がいてくれて、良かった。


しばらく俺を弄ったあと、

高大はまた昨日と同じように、

尊人の悪口を言い始めた。


そして、

しばらくの間、尊人の悪口大会が続いた。


──悪いな、尊人。

これはお前のせいだ。


俺たちはそれぞれに、

そんな思いを抱えながら、

お前の悪口に花を咲かせた。


雨足は、少しずつ強まっていた。


「……そろそろ行くわ。」


高大はそう言って、

帰路についた。


俺たちは高大を見送ると、

残ったつまみを食べながら、少しだけ話した。


「光希は、あんまり変わらないな」

「そう?」

「あの汚い泣き顔は、変わってない、笑」

「親友との別れなのに言い方ひどくね?」


そんな、くだらない会話をしながら、

ゆっくりと時間が過ぎていった。


「……そろそろ行くか。」


皓太の言葉に、

少しの名残惜しさを感じながらも、俺は頷いた。


ロッカーから荷物を出し、駅に入る。


「おい、光希!」


皓太の慌てた声がする。


「なに?」

振り返ると、あいつがスマホを見ながら顔をしかめていた。


「電車、止まってるんだが……」

「はぁ?」

「いや、止まってる。俺の方も、お前の方も。

 この雨のせいらしい。」

「……嘘だろ。」


どうやら、強まった雨は電車すら止めてしまったらしい。


「どうすんの、これ。」

俺はただ、普通に聞いた。


「〇〇駅まで行けば、ホテルぐらいあるだろ。」

「んな、とりあえずそこまで行くか。」


俺たちは改札をくぐり、

宿がありそうな駅を目指した。


しかし──


「皓太……宿、全部埋まってるんだが……」


スマホの画面を見つめながら、

俺はそう呟いた。


急な列車の運休は、俺たちの希望を打ち砕いた。

無理もない。

運休の発表から、すでに一時間。

俺たちが尊人の悪口大会に花を咲かせていた頃、

世間の人間たちは寝床の確保に勤しんでいたわけだ。


「……どうすんの、これ。」

俺の言葉に、皓太は平然と、こう言い放った。


「しゃーない、ラブホでええやろ。」


その瞬間、

俺が“言い訳”にしてきた雨は、

今度は──

俺に言い訳を許さないために、降り注いでいた。

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