☔第6章 通夜
駅前の適当な店で、俺と皓太は食事をした。
当たり障りのない会話。
俺たちは、まるであの時が無かったかのように話し続ける。
まあ、大っぴらに話せる話題でもない。
仕方ない。分かっていたことだ。
近況を話し合う俺たち。
皓太は、傾いた親の事業を立て直し、
それも今では軌道に乗っているらしかった。
――あの時、大学を辞めたのは正解だったんだろうな。
そう思った。
うん、良かった。皓太はやっぱりちゃんとしていた。
⸻
なんとなく色々話して、皓太は帰った。
電車で一時間程度。大した距離でもない。
当たり前か。
そんな感じでその日はホテルに戻り、俺は眠った。
疲れた。ただ、疲れた。
尊人……
お前は、なんで自分で自分を――
そんな思いを抱えたまま、
俺は眠りに落ちた。
⸻
そしてまた、習慣に叩き起こされる。
ただ、時を待った。
通夜か……。
正直、作法も意味もよく分かっていない。
ただ、親友との別れの準備なんだろう。
そう思っていた。
通夜には高大もちゃんと来ていた。
皓太、高大、俺。
尊人の親友と呼べる三人と、尊人の両親、そして美奈と両親。
多くの友人を持つ尊人にしては、
あまりに少ないお別れ会の前夜祭だった。
こんなもんなんだろうか。
あの尊人の通夜なのに――。
そう思いながらも、仕方ないという事実を受け入れ、時は進んだ。
⸻
通夜のあと、俺たち三人は駅前の居酒屋で、
“前夜祭の反省会”をしていた。
高大は相変わらずバカだ。
そしてそのバカっぷりが、少なくとも俺を癒してくれた。
高大はひたすら尊人の文句を言っていた。
うん、分かる。
俺だって今、尊人が目の前にいたら、
同じことを言っていたかもしれない。
――尊人、バカ。
酔って泣き続ける高大を見ながら、
俺はただ、そう思った。
そして店が閉まるまで、
ひたすら尊人の悪口を言い合い続けた。
うん。やっぱりお前はバカだよ、尊人……。
⸻
閉店時間になり、店から追い出された俺たちは、
互いの宿泊先へと帰ることになった。
皓太を除いて――。
「おい、終電無くなってるんだが……。」
皓太が少し呆れたように言う。
「もうええやん、ミッキーんとこ泊まったらええやん。」
そう言う高大。
「ホテルに事情話したら大丈夫だと思うけど、皓太はええの?」
「ホテルがええならええよ。悪いな。」
ホテル……いや、問題は俺が“良いかどうか”なんだけどな。
まあ、いいか。今更だ。
ホテルに電話して事情を話すと、
追加料金を払えば問題ないとのことだった。
「ええらしいよ? 皓太はほんまにええの?」
酔っていたせいか、少し軽く聞いてしまった。
「終電ないしな。悪いな。」
皓太はそう言って笑った。
そして――俺たちは一夜を共にした。
雨はまだ、しとやかに降り注いでいた。
激しさを増す前兆を見せながら。
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