☔第5章 皓太2
皓太が尊人に会い、美奈ちゃんと話し、尊人の親御さんと話している間、
俺は会場の外にある喫煙所で座っていた。
雨足が弱まるのを待つという――
そんな都合のいい言い訳をしながら。
⸻
「こいつ皓太ってんや。ミッキーと歳はタメやな。浪人してるから学年下やけど、
めっちゃええ奴やから仲良くしたって。」
そう言って尊人が紹介してくれた皓太という男は、一言で言えば――厳つい。
短めの髪に大きな身体。
たしか柔道をやっていたと聞いている。
大学でもそこまで強くない柔道部に入っているらしいが、
そんなことはどうでもよかった。
お互いのアパートが近かったせいか、
知り合ってからすぐに仲良くなり、いつも連んでいた。
見た目に反して家庭的で、料理も上手くて、
俺たちが飲むときはいつも皓太の部屋――それが当たり前になっていった。
デカい。
ゴツい。
むさい。
そして、なにより――優しかった。
⸻
大学2年の夏。
梅雨が明けた後、フットサルサークルのBBQを開くために、
皓太のアパートから徒歩15分ほどの海岸沿いのBBQ場へ。
その予約と下見の日、あのゲリラ豪雨が降り注いだ。
俺たちは――結ばれた。
暑い夏の始まり、それよりもひと足先に、
俺たちはお互いの熱で汗だくになることが当たり前になっていた。
⸻
雨がアスファルトを叩く音が、少しずつ強くなる。
煙草の火が小さく揺れた。
過去の記憶と今の雨が、静かに重なっていく。
「光希。」
再び呼ばれた俺の名前。
一気に現実へと引き戻される。
皓太だった。
皓太は俺の隣に座ると、タバコを取り出し火をつける。
白い煙がゆっくりと上がり、紫煙が雨上がりの湿った空気に溶けていった。
「お前が泣くのを見るのは、二回目だな。」
その声に混じる煙草の香りが、記憶を呼び覚ます。
「相変わらず酷い顔で泣くな、お前、笑。」
皓太の前で泣いたのは、今日以外でたった一度。
大学四年の残夏。
皓太が親の仕事の都合で大学を辞める――いや、休学か。
どっちにしろ、復学の目処なんてなかったから辞めるでいいんだろう。
それを告げられ、全てを清算して帰宅する前日。
あの日以来か。
あの日も、確か雨だったな。
皓太は、雨が止むまで俺の部屋で待っていてくれたっけ。
雨が止んだら行ってしまう。
あの日ほど、雨が止むのを厭ったことはない。
⸻
「皓太……」
「素で酷い顔のお前に言われたくないんだが、笑。」
精一杯の強がり。
そして、それが嘘だとわかっている。
「相変わらず口が悪いな、笑。」
そう言って流す皓太。
こんな軽口を言っていなければ、
俺はきっと自分を抑えられなかっただろう。
目の前にいる――俺のすべてを知り、受け止めてくれる男。
その前では、強がることしかできない。
でなければ、俺は一瞬で崩れ落ちていたはずだ。
だから今は、理性を保つために笑うしかなかった。
⸻
「相変わらず傘は持ってないのね、笑。」
「まあ、気合い入れときゃなんとかなる。」
ならねぇよ……。
心の中でそう叫びながらも、
変わらないあいつに、俺の中の“消えない熱”が再び疼く。
「高大はもっと遅くなるって。待ってもいいけど、飯でも行く?」
特に何も考えずにそう言った。
「ええよ。俺は一旦帰るし、飯だけ食おか。」
父から事業を引き継ぎ、立て直した皓太。
今も忙しいんだろう。
俺たちは、少し弱まった雨を一つの傘で避けながら、
会場を後にした――。
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