第3話 決死の戦闘
習得したばかりの魔術を使って、船の残骸へと戻った。アンドロイドのアリストは俺に見向きもせず、黙々と腕を修復していた。
「できたよ。高速移動」
「そのようだな」
応答しているうちに急激な疲労感に襲われ、俺は寝転がった。
「私も、自らを強化したぞ」
どうだ、と不格好な胴体を見せつけてくる──相手にしないまま目をつむろうとして、ハッとした。魔力炉だ……いつのまにか彼の、人間でいう心臓部分に取り付けてある。
「私は魔術を使えないが、魔力を物理的エネルギーに変換することはできるんだ」
「へぇ……」
関心して、目を見張った。こんな使い道があったとは──しかし、船を暴走させるほどのエネルギーをいちロボットが制御できるのか、疑問だった。
それから、俺は軽い眠りについた。やはり、どれだけ強化されても人間なのだ。
浅く、細切れの睡眠だった。せめて最期に、夢でいいから母と話したい──けれど、映るのは残酷なものばかり。仲間に喰らいつく悪魔たち、灰や腐敗の匂い、血だまり──
最後の悪夢から覚めると、日が上っていた。アリストが立ち上がって、四方を見渡している。空は淡いピンク色で、その遥か先から白い物体が迫ってくる。豪速のため、姿は霞んでいるが、あの悪魔に違いない。怒号や、激しく地面を蹴る音が響いてきた。
「一体じゃないぞ! 気を付けろ」
その通りだった。すぐに形がはっきりしてきて、数も分かった。五体だ……
「私は魔力炉の力を、君は特訓の成果を見せつけるときだぞ!」
「ああ。分かってる」
腕から刃を出し、構えをとった。
最初に、昨日の奴が飛び掛かってきた。高速移動で避け、続く連撃を防御魔法でガードする。
よし、うまく使えているぞ!
もう一体がこっちに殴りかかる。ひょいとかわし、念力で二体の頭を思い切りぶつけてやった。一方アリストは、脅威の身体能力で三体と渡り合っていた──蹴って、切りつけ、はねのける。銃を乱射し、敵に風穴をあける。だが、殺すまでには至らない。
俺は片腕を振りかざし、例の電撃を発した。白い稲妻が木の根のように枝分かれしながら、駆け抜けていき、二体の敵を焼いた。唸りを上げ、膝をつく悪魔。もう少しで、絶命させられそうだ──
前触れもなく、全身が震え出した。まるでこっちが電気攻撃を受けているかのように、四肢が麻痺して、神経に張るような痛みが走った。必殺の電撃も、次第に途切れていく。魔力をいたずらに酷使した反動がきたのか?
悪魔たちが復活し、迫ってくる。どれだけ力んで、叫んだりしても魔術が発動しない。悪魔が手を伸ばす。殺される──
これまでの人生が、脳裏に連続で浮かんでくるものと思っていた。違う。走馬灯なんか見えない。思考速度こそ早まっているものの、脳は目の前の危機に悲鳴を上げていて、都合のいい記憶を見せてくれたりはしなかった。
母さん、すまない。こんなところで俺は死ぬんだ。他の誰にも気づかれないまま、骨も残さず喰いつくされるんだ──
「諦めるんじゃない。まだチャンスはある!」
そうだ──まだ死ねない。家族との思い出を希望に、俺は考え続けた。念力を背後につけることで高速移動ができるなら、拳に力をまとわせ、威力を高めたりといったこともできるのではないだろうか──残り僅かな時間で、人体の奥深くに溜まっている、魔力を見つけた。
そいつを脚部に集め、やっとのことで地面を蹴り上げた──現実に目を向けると、俺は間一髪で悪魔の攻撃をかわしており、さらに勢い余って数メートル跳躍していた。地の利を生かし、悪魔の顔面めがけて、念力をまとわせた腕を振り下ろす。悪魔は以前と同様に、両腕で主要部位を守ろうとする──今度は、一味違うぞ。
腕の刃は相手の両手首を落とし、さらに一方の刃は顔面に、もう片方は右胸に大きな亀裂を入れた。そいつの腹を蹴って、飛びのく。
どうやら、ようやく絶命したようだ。
もう一体の悪魔は、いつのまにかアリストを襲っていた。彼は四体の怪物相手に防戦一方だ。いくら超強化したとはいえ、荷が重すぎる。
俺はすかさず駆け寄ろうとして、とっさに魔術を回避した。それは俺の必殺技にそっくりの、雷魔法だった。威力は分からないが、広範囲に青い電流が駆け抜け、アリストがそれをもろに食らっていた。
動きが鈍り、悪魔に袋叩きにされていく。ひどく殴られ、胴体部分がへこむ。片足がもげて、逃げられない。手を振り回したりして反撃するが、まるで効かなかった。昨日の殺戮とは比較にならないほどの徹底ぶりだ。
「やめろ!」
俺は糾弾し、悪魔たちの輪に飛び込んでアリストを拾った。
顔はつぶれ、胴体は泣き別れ寸前だ。手足は硬直し、機能停止している。俺は周りの化け物を交互に見やって──残り僅かの魔力を振り絞り、全力でその場から逃走した。
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