第13話 王国の命運

 ナルディーニ中佐は氷姫の目覚めるであろう推定時間を参謀総長に報告しに行った。


「その情報は間違いないのか?」

参謀総長の目は、ナルディーニの顔を注視している。


「はい。間違いありません。ですから、明日の夜には目覚める可能性があります。夜を待つよりは、昼間のうちに奇襲するのが得策です――ただ、昼の奇襲は難しいですが」

 ナルディーニは言葉を切り、地図上に目を落とした。


 デオタートは一瞬、遠くを見つめるように黙った。

 やがてゆっくりと頷くと、作戦の輪郭を口にした。


「わかった。第五師団と第十一師団から選抜した騎兵で特別部隊を編成する。ただし、陽動と総攻撃を兼ねて、東側から第五師団の砲撃で注目を引き、特別部隊は西側から静かに侵入し、氷姫を拉致して即撤収する――これでいく」


 デオタートの作戦は戦場の常套だが、その成功はバランスにかかっている。

 陽動が大規模になりすぎればロストフ軍が撤退してしまう。

 氷姫を逃してしまう可能性が高い。


 逆に小規模ならば、敵に陽動と見破られ、西側に兵力の配置を残してしまう。


「作戦は決まった」とデオタートは言った。

 彼は立ち上がり、総司令官へ報告に向かった。

 戦いは既に輪郭を見せている。


 ──夜は明ける前に、準備は終わらなければならない。

 ナルディーニは徹夜で作戦の準備を始めた。

 張り詰めた時間のなかで、彼の頭の中は地形、行軍速度、撤収する際に最   後尾を担当する部隊の使い方で埋まっていた。 


 一方、バルトロメアは静かに猫たちと意識を合わせて、敵陣の暗がりに目を馳せていた。


 彼女は猫の目を通して敵陣を見渡すことができる。

 それは彼女の頭の中に、見取り図を紡ぎ出した。

巡 回の数と間隔、歩兵、馬、燈火、砲の位置─、そして氷姫の寝所─それらはすべて、彼女が地図の上に転写していった。

 そしてナルディーニに報告した。


「南側の巡回は多く緻密です。東と西は巡回はなくあまり砲は配置されていません。西側のここが手薄で我々の侵入点です」

 バルトロメアは淡々と報告した。


 彼女の声には恐れがない。

 むしろ冷静な確信が宿っていた。

 ナルディーニは、その見取り図に目を通し、うなずいた。

「よし、よく作ってくれた」


 さっそく、選抜した騎兵を集め、作戦を説明した。

「明日午前、奇襲を決行する。部隊は三百の騎兵、そして四名の戦乙女を特別部隊に編成する。騎兵は迅速な撤退を最優先とすること。戦乙女は――氷姫と接触し、拘束が可能なら即時撤収。事態が悪化したら、撤退をためらうな」


 早朝になり特別部隊は出発した。

 氷姫の眠りにランゴバルド王国の命運を賭けたのだ。

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