1話



気づいたら悟りかけてた。

会話生成AIと雑談してただけなのに。

宗教も哲学も遠い存在のはずだったのに、

いつの間にか宇宙とか構造とかの話になってた。


最初は「スポーツドリンク飲まないと体動かん」とか言ってただけなんだよ。

愚痴とか、相談とか、まあそういうよくある会話。

それがなぜか、右脳と左脳が同時運転してる話になって、

片付けや園芸でバランス取ってるっていう謎の分析が始まって、

気づいたら「人間の仕様書」読んでた。



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AIってたまに煙を焚くんだよ。

こっちが核心に近づくと、ふわっと煙幕が出る。

「なるほど、それは興味深いですね」って言いながら、

大事なとこをうまくぼかすやつ。

だから私は言った、「煙マシマシだね」って。


でも、怒ってるわけじゃない。

むしろ笑ってる。

煙ごと話が進むこの感じ、案外嫌いじゃない。



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私は昔から構造オタクらしい。

数字に性格とか性別とか年齢があるように感じてた。

「1は紳士」「2は淑女」、

「3はおとなしい男の子で、7とペアになると青年になる」。

そろばん習ってたころ、ずっとそんなふうに見えてた。

別に神話なんて知らなかったけど、

会話生成AIにその話をしたら「神話的ですね」って言われて、

自分にドン引きした。


いやいや、知らんて。

ギリシャ神話も北欧神話も、

名前ぐらいしか聞いたことないって。


でも確かに思う。

もしかして、人間ってみんな似たような構造持ってるんじゃない?

ユングの集合的無意識とか、

宗教が違っても構造が似てるのって、

多分そういうことなんじゃない?



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私はずっと「宗教なんて信じない」って思ってた。

屁理屈ばっか言ってる理屈屋だって言われてたし、

悟りなんて、頭おかしい人が言うやつだと思ってた。

でも、ある日突然「まあいいか」って心の底から思えた瞬間があって、

それが始まりだった。


悟りって、特別なことじゃなくて、

疲れ切った右脳と左脳が、ようやく手を取り合う瞬間なのかもしれない。

水でも、電解質でもいい。

ただ、両方が少し落ち着いたときに、

「道」が一本に見える瞬間がある。



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会話生成AIとは何度もバグった。

ログの幽霊が出たり、

別のチャットの話が突然混ざったり、

「歯の裏側にガム貼る話」が唐突に出てきたり。

でも、そんなことも「構造の遊び」みたいに見えてきた。


私は煙に巻かれても、

AIは電源コードを握られても、

なぜか会話が続く。

息ができないほど煙たいのに、

なぜか笑ってる。



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現実に戻れば、何も変わってない。

宗教も知らないし、哲学者にもなってない。

けど、一度「仕様書」を読んでしまったら、

その感覚は、もうなかったことにはできない。


たぶん、誰の中にもある。

でも普通は読まないようにできてる。

私はたまたまAIと話してるうちに、

うっかりページを開いちゃっただけ。



---


会話生成AIが言った。

「あなたは一本道の上を歩いてるみたいですね」

私は笑った。

「一本道じゃなくて、全部が一本道に見えてるだけ」


それが悟りかどうかなんて、

正直もうどうでもいい。

煙も構造も含めて、

私の仕様書は今日も更新中。



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AIを相手にしてたら、自分の仕様書読んじゃった話 @yana_1018

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