第21話「贈り物と意地悪 前編」2
琳家の正面門を抜けると、そびえ立つ巨大な
普段は取引相手を迎えたり、交渉の場として使われる場所だが、その日だけはまるで市のように華やかだった。
ジャーン!という効果音と共に、広間いっぱいに机が並び、宝石、服、工芸品、
装飾品がずらり。
呼び集められた商人たちが、声高に自分の品を売り込んでいる。
「
絶対にお似合いです!」
「この金の彫り物!
都でも評判の細工でございます!」
矢継ぎ早に浴びせられる言葉に、
春燕は完全にうろたえていた。
「えっ…い、いえ!あのっ…大丈夫です!
私には勿体ないもので…。」
必死に手を振るが、商人たちは引き下がらない。
「お気に召しませんか?
どれも特別にご用意した品なのですが」
「そんなことは!どれも素敵です!
ただ、私なんかが着飾っても似合いませんし…。」
春燕は困った顔で答えたが、商人はさらに織物を手に取り、彼女の肩に当ててみせる。
「では、この織物はいかがです?
都で流行りの仕立てにすれば――」
「結構です。着る物はあります。
かんざしもありますから。」
はっきりと言って一歩下がる春燕。
しかし商人は、彼女の着古した服や、
木製の素朴なかんざし、髪飾りを目にして
口ごもった。
「ですが…それではいささか…。」
「今持っている物で十分です。
どれも大切なものですから。」
春燕は静かに、しかし強い口調で言い切った。
その場の空気が一瞬凍りつく。
壁際で見ていた
「……おい。」
「えぇー…。」愁飛も思わず絶句する。
やがて商人たちが退室すると、
広間には気まずい沈黙が残った。
「気に入った物がなかったのか?」
凌偉が口を開く。
「いえっ、そうではなく…!
ただ、私にはあまりに高価すぎて勿体ないので。
必要ありません。今あるもので十分です。」
そう言い切ると、春燕は
「厨房の仕事がありますので。」とだけ残し、
足早に去ってしまった。
残された凌偉は無言のまま立ち尽くす。
琳凌偉、十九歳――生まれて初めて、
女性に贈り物を断られた瞬間だった。
「……婚約者に贈り物を断られるなんて、
琳家の面子に関わるぞ。」
不機嫌さを隠そうともせず、凌偉は愁飛に言い放つ。
(いやいや、八つ当たりだろこれ)
愁飛は苦笑しつつも、楽しそうに肩をすくめた。
「じゃあさ、話し合えばいいじゃん。
商売と一緒だよ。まずはお互いに話して、
信用し合わないと!」
「信用…。」
その言葉に、凌偉は顎に手をやり、すぐに頷いた。
「商売人は信用が第一。嘘は言わず、本心を話す。」
そう言い残すと、凌偉は振り返り、愁飛を連れて春燕のもとへ向かっていった。
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