1.危

 翌朝、青凪高校の空はどこまでも晴れていた。

 文化祭前日ということもあり、校内はいつも以上に浮き立っている。

 ――その喧噪の中心で、ただ一カ所だけ、空気が凍りついていた。


 生徒会室。

 その扉の前には、生徒会メンバーと先生、そして数名の生徒が集まっていた。


 「やっぱり...どこにも、ないのか?」

 生徒会長の柏木が、机の引き出しをひっくり返しながら呟いた。

 昨日までそこにあったはずのUSBメモリ――文化祭全体の企画書、出店許可データ、会計記録がすべて入っている。

 それが、忽然と消えていた。


 「鍵は昨日の会議のあと、私が閉めたんです」

 書記の長谷川が顔を青ざめさせて言う。

 「その後は、誰も入ってないはずで……」


 「でも、鍵がかかってたんだろ? だったら、どうやって……?」

 会計の三浦が声を荒げる。

 誰もが口々に言い合う中、教室のドアの隙間からひとり、真白が中を覗いた。


 「……何があったんですか?」

 彼女の問いに、柏木は苦い顔で答えた。

 「USBがなくなった。文化祭データの全部が入ってるやつだ。」


 教室の隅では、長谷川が震える声で付け加える。

 「先生に言われて確認したけど……バックアップも壊れてて……」


 ――まるで、誰かが意図的に“すべてを消そうとした”ように。


 真白は静かに室内を見回した。

 机の上の散らかった書類、ペン立ての位置、空いたままの窓。

 そして、誰も気づかないほど小さな違和感――

 カーテンの裾に、細い糸のような繊維がひっかかっているのを見つけた。


 「……窓から、誰かが入った可能性は?」

 その一言に、柏木が目を見開く。

 「でも、三階だぞ。そんな危ないこと――」


 真白は少し首をかしげた。

 「“危ないことをしない人”ばかりなら、事件なんて起きないですよ」


 その冷静な言葉に、室内の空気が一瞬止まった。

 真白の瞳はもう、事件の中心を見据えていた。


 こうして――文化祭前日、青凪高校を揺るがす奇妙な事件が幕を開けた。

 そして、朝倉真白の小さな“推理”が、静かに動き出す。

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探偵は放課後に。 青街ミノリ @minori1209_

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