第8話 換金
「レオン、どうした?」
年配の
年季を感じる装備に佇まい。
おそらくベテラン
「ああ、バルガスさん。討伐報酬の換金をお願いしてるんですけど、リディアさんに受け付けてもらえなくて……」
「何? それって、どういう……」
バルガスはこちらに視線を向けてきた。
「レオン君はF級です。F級がC級のダンジョンをソロ攻略するなんて、ありえません。だからイタズラは止めるように諭しているところです」
「俺はイタズラなんかしてませんよ!」
そこでバルガスが仲裁に入る。
「まあまあ。じゃあ、レオンは本当にソロでC級ダンジョン攻略したのか? てか、そんなダンジョン近隣にあったか?」
「それは、あのはじまりのダンジョンが生まれ変わりをして……それで本当にソロダンジョン攻略してます」
「ああ、そういうことか……って、すげーじゃねえか、レオン! やったな!!」
バルガスはレオンの背中を叩いて、祝福を送る。
そうこうしていると、騒ぎを聞きつけて他の探索者も集まって来た。
「どうした?」
「レオンがC級ダンジョンソロ攻略したんだって!!」
「ほんとか?」
「すげーじゃん、レオン! おめでとう!!」
「C級のソロ攻略なんて、なかなかいねーぞ!!」
レオンは探索者たちに囲まれて祝福される。
私は慌てて牽制する。
「ちょ、ちょっと盛り上がってますけど、F級の子がC級をソロ攻略なんて実績。口頭報告だけで認めるわけにはいきませんからね!」
このまま既成事実にされたらたまらない。
言うべきことは断固として言うのだ。
そこで、バルガスが神妙な顔つきになって言う。
「リディアさん、俺はレオンが嘘ついているとは思えません。F級がC級ソロ攻略っていうのが、にわかに信じがたいのはわかりますよ。普通なら信じられないでしょう。だけどレオンは、そんなくだらない嘘をつくやつじゃないです。それは俺が保証します」
「そう言われましても……」
ギルドでの換金には換金レンダリングというものも存在する。
表に出せないような盗難や強奪された魔石やアイテムなどを、悪辣な
もしかしたらレオンはそういった犯罪に巻き込まれている可能性もある。
だから安易に換金に応じることはできないのだ。
「なんらなら俺が保証人になってもいいですよ?」
予想外の提案がバルガスからされる。
「……ほんとですか? レオン君が嘘ついていたら、あなたに損失を補填してもらうことになるんですよ? それに、もしレオン君が犯罪の片棒をかついでいた場合は、あなたの経歴に傷がつくことになりますよ?」
「いいですよ。レオン、大丈夫だよな?」
バルガスはレオンに問いかける。
レオンに集まった探索者たちの視線が集まる。
「大丈夫ですよ。やましいことは何一つないんで」
レオンはバルガスの視線を真正面から受け止めながら堂々と答える。
私には彼が嘘をついているようには見えなかった。
バルガスについてはこのギルドの信頼に足るベテラン
何か困ったことがあれば彼に聞けばいいとまで言われている。
そんな彼が保証人にまでなってくれるというのなら、こちらとしても換金と実績登録を断る理由はもうなかった。
「分かりました。それでは換金と実績登録を進めさせていただきますね」
流石に大丈夫だろう。
……てか、それならばレオンは本当に単独でC級ダンジョンを攻略したのか?
しかもF級で。もし、今まで私が早合点して暴走していたのだとしたら……。
顔に火がついたように恥ずかしくなる。
その時、唐突にその場を通りかかった別の探索者に声をかけられる。
「あれ? うっかリディアじゃん。なんでこのギルドにいるの?」
「え゛っ!?」
なんでそのあだ名を!?
声の主に視線を向けると、前ギルドに所属している探索者だった。
「なんであなたがここにいるのよ!!」
「いや、たまには都会に出てくることもあるんだわ。なんだ、うっかリディアは王都に転属になったのか」
「そのあだ名で呼ばないで!!」
集まっている探索者たちがざわめく。
「なんだ、うっかリディアって?」
「彼女の前ギルドでの渾名っすよ。色々やらかしてるんで。貴族の肖像画を指名手配犯のWANTEDの枠に貼り付けたりとか。引き戸のドアを押して開かないといって蹴破ったりとか、いろいろ。他にも早とちリディアっていうあだ名もあって……」
「わーわーわーーーーー!! 黙りなさい、この!!」
必死に妨害して、その口を防ごうと手を伸ばす。
止めて! 私はこのギルドで生まれ変わるの!
今日から素敵なシゴデキウーマンになるの!
「さっさと田舎のギルドに帰りなさい! てか帰れ、このあんぽんたん!!」
近くにあった長めの定規を武器として手にとり、振り上げる。
「おー、こわ。じゃあ、皆さんそういうことで。まあ、天然で抜けているところはありますが、受付嬢の仕事はちゃんとやってくれますんで。では!」
そういうと男は逃げるようにそそくさとその場から離れていった。
すると、みんなの注目が私に集まる。え、なに?
「じゃあ、よろしくな! うっかリディア!」
「これからよろしく頼むな! 早とちリディア!」
ぐぬぬぬ。早速いじりがはじまる。
終わった。
私の転属シンデレラ計画が。
シゴデキ素敵なお姉さん化計画が。
「あのぅ……換金進めてもらってもいいですか?」
そこで申し訳なさそうにレオンは言う。
そうだ、彼のことすっかり忘れてた。
ショックは大きいが仕事を進めよう。
もう私には仕事しかないのだ。
「少々お待ち下さいね」
無理に笑顔を作って、レオンの信じがたい実績を帳簿につけるところからはじめた。
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