第29話 真水竜決戦・結。【俺の家】と家族の完全勝利。

 ーー【俺の家】のモニターの視界の中、全身全霊の剣を振り終えたプリアデがゆっくりと落ちていく。


 その口もとに浮かぶのは、託された仲間かぞくとして、やるべきことをやりきった会心の笑み。


「「我ハハッ! 守護ジャナリ! コノ地ヲ侵スモノ、総テ! コノ我ガッ! 排除スルッ!」」


 背を深く大きく刻まれた真水竜が大きく乱れた無機質な定型句。憎悪を感じさせる声とともにプリアデに向けて振り返り。


 その瞬間。


「いま、ですっ!」


 障壁を足場に、気づかれないように空中を跳び移りつづけた外周。


 遺構プールを囲むすぐ近くの柱の一本の頂上。

 激しく動いた影響で隠蔽の魔法陣を消失させながら、シルキアが叫び真水竜の背に飛びかかった。


 これ以上ない完璧なタイミング。


 プリアデが二度深く刻んだ背中の傷へ向けて、左右二本の短剣が閃き。


「ギジャアアアァァァァァァァァァッッ!!」


 ーーその奇襲を予期していたかのように、飛沫を上げ、水竜が横に激しく回転する。


 左手と、右。


 まるで激流のような勢いで立て続けに振るわれた二本の爪。


「くっ!?」


 ーー白と黒のメイド服が身につけていたものごと斬り裂かれ、花弁のように、散る。


 そして。


「いまので役割は終わりですが……! たかがでかいトカゲ風情が私の誇りを汚した代償は! 支払ってもらいますっ!」


「ギャァァジャアァァァァァァァァッッ!?」


 障壁を足場に空中で跳んだシルキアは、半ば切り裂かれたメイド服。

 その下の肌に張りついた黒いインナースーツを露出させ、怒りのままに真水竜の片目を一直線に飛ぶ矢のように斬り裂いた。


 ──魔導砲塔の準備は、すでに完了していた。


「ヒキールさまっ! あとはっ!」


 そして、シルキアが再び空中で障壁を跳び、最奥へ。真水竜から逃れた瞬間。


「グブボジャアアアァァァッ!?」


 俺たちの作戦の本命。


 メイド服を切られたのは誤算だったが。あえて真水竜にシルキアの腰の魔法鞄ポーチの中身。


 作戦の本命。


 全長20メートルの巨体を覆いつくし、なお余りあるほどの、俺が魔改造した粘性の高い特製の超大量の油が降り注ぐ。


 ──ガシャシャシャシャシャ!


「稼働全砲塔、展開! 誘導弾! 魔法選択、! 一斉射ぁっ!」


「「我ハッ! 守ゴジャッガッギジャアアアァァァッッッ!?」」


 なお足掻く水竜の操る無数の水柱と、【俺の家】が間断なく放つ無数の火の弾が衝突、爆発。


 そして、真水竜の表面についたごく小さな火の粉が種火となる。一気にその20メートルの巨体を燃え上がらせた。


「ガガガギジャアアアァァァッッッ!?」


「まだまだぁ! 稼働全砲塔、連続っ! 斉射ああぁっ!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガガガッ!


 撃ち続ける。収束はしない。いま必要なのは速さ。そして、途切れさせないこと。


 全身を燃え盛り、悶える真水竜が水面をのたうち回る。


 だが、すでに大量の油が撒かれたそこも火の海だ。

 水面を燃やす炎がさらにまたその身を焼く。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」


 連続稼働する砲塔への負荷など、いまは考えない。

 発射間隔をコンマ一秒以下でずらし。連続して撃ち続け、焼き尽くし、その巨体を広げた傷口うちと外から燃やし続ける。


「ガ……ガッ……ギ……ジャ…………………………」


 ーーやがて、断末魔を上げるための喉すら、傷口の内部、臓腑すら焼き尽くした頃。


「ァ……………………………………………………」


 ボロボロと、まるで少しずつ少しずつその身を散らすように真水竜はその20メートルの巨体を灰と崩れさせ。


 最後には、跡形もなく。


 大ぶりの青い魔石をたった一つ遺し、トプン、と遺構プールの水中に沈ませて、真水竜はその巨体を完全に消滅させた。


 そして。


「や、やっと終わった? この格好、ずっとやり続けるの、案外辛いのよね」


「そうですね。それに、嫁入り前の娘としては、ちょっとはしたないかもです」


「そ、それは言わない約束よ!?」


 ーー無事を確認したいと、いてもたってもいられず、俺は【家】の2階のバルコニーに飛びだす。


 いまだ燃える火と熱と、蒸気がくすぶり漂う戦場跡。


 外周の壁際。


 ぴったりと寄り添うのは、金のポニーテールをなびかせる軽鎧の少女と、銀の三つ編みを揺らす、半壊したメイド服の少女。


 右と左のしなやかな脚をそれぞれに上げ、ぴったりと寄り添い重ね。

 足下からの白い二重障壁で、いまだ続く熱も炎も無事に防ぎきった、二人。


 頬を染めながら、本人たちの言うとおり、作戦上仕方ないとはいえ。


 ややはしたないとも言える格好ポーズで微笑む、作戦どおりにそれぞれの仲間(かぞく)としての役割をやりきった、プリアデとシルキアに向けて。


「おう! プリアデ! シルキア! 【俺の家】と仲間(かぞく)の完全勝利だ! 水【竜殺し】ーーついにっ! 達成っだぜっっ!!」


 俺は、会心の笑顔とともに勝利のあかしに、


 ビッと大切な家族二人に、親指を立ててみせ、


「ええ! やったわね! ヒキール!」

「はい! やりました! ヒキールさま!」


 ──二人もまた、それにそろって親指を立て、会心の笑顔で応えてみせた。

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