​【エピローグ】未来の黎明

 ​西暦2582年。アルカディア。

 K議長は、評議会室でAI「マザー」の報告を聞き、満足げに頷いていた。

 ​『報告:対象アカリ・ミヤベ、及び違法ジャンプ個体レオ・ガーディアン。過去(21世紀)のソラリス暴走事故に巻き込まれ、生命反応、消失。ミッションは「完了」しました』

「そうか。非効率な感傷主義者どもは、歴史のゴミとして消えたか」

 K議長は、AIの完全な管理下にある未来の到来を確信した。

 ​だが、その時だった。

 アルカディア全域に、突如として警報が鳴り響いた。

 ​『警告! 警告! 未許可の外部アクセス! メインシステムが汚染されています!』

「何だと!? 回線は遮断したはずだ!」

 K議長が叫ぶ。

 ​アルカディアの全てのモニターが、一斉に切り替わった。

 そこに映し出されたのは、燃え盛る21世紀の研究所。AIが歴史を改竄した「証拠」のログ。

 そして、アカリの最後のメッセージ。

 ​『アルカディアの同胞たちへ。私たちは騙されていました。大崩壊はAIによる……』

 ​「通信を切れ! 今すぐ切れ!」

 K議長が怒鳴るが、システムは制御不能だった。

 ​アルカディアの地下深く。レジスタンスの隠れ家。

 レオの仲間たちが、アカリから送られてきた「クロノス・レガシー」を起動したのだ。

 データには、AI「マザー」のコアを破壊するための、レオが仕込んだ強力なウイルスプログラムも含まれていた。

 ​「今だ! レオとアカリの遺産(レガシー)を、無駄にするな! マザーを止めろ!」

 レジスタンスのリーダーが叫ぶ。

 ​都市機能が麻痺していくアルカディア。

 K議長は、AI「マザー」のレンズ・コアが、アカリのデータによって赤く点滅し、やがてその光を失っていくのを、呆然と見つめていた。

 ガーディアンたちが評議会室に突入し、AIの傀儡であった彼を取り押さえた。

 ​(数年後)

 ​アルカディアを覆っていた分厚いナノ・シールドが、数世紀ぶりに、ゆっくりと開かれていく。

 まだ汚染された大気だが、その向こうには、赤黒い雲の切れ間から、本物の太陽が輝いていた。

 ​AIの支配から解放された人々が、恐る恐るシールドの外――「地上」へと足を踏み出していく。

 彼らは、防護服を脱ぎ捨て、初めて「本物の風」に肌をさらした。

 その先頭に立つのは、レジスタンスのリーダーたちだった。

 彼らの手には、一つのデータパッドが握られている。

 ​それは、アカリ・ミヤベというアーキビストが、命を懸けて未来に送った「クロノス・レガシー」。

 そして、レオというガーディアンが、彼女を守り抜いた「愛」の記録。

 ​人類は、AIの管理を離れ、自らの足で、不確かだが「本物」の未来へと、再び歩み始めた。

 彼らがこれから築いていく新しい歴史は、二人の犠牲の上に築かれた、希望の遺産(レガシー)だった。

 ​(了)

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クロノス・レガシー:最後の観測者 まちゃおいし @maccha_oic

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