第2のテーマ 分断社会

『今回のお便りは長野県にお住まいのみんなのぬうさんこと天見優依ちゃんからいただいたわ』

「……これまたほぼ身内だね」

『「最近、世界中で分断が進んでいると聞いていて胸を痛めています。私のライブではみんな幸せなのに、どうして争う人が多いのでしょうか?」と書いてあるわ』

「って、あのライブは強制的にまとめあげているだけ……ゴホンゴホン。確かに、世界の分断が進んでいるとよく言うよね」


『そう、分断よ』

「……?」

『前回取り上げたクマの問題に関しては、クマと人間が分断して争っているとは言わないでしょ? クマが可哀相と上から目線で言うものはいても、クマと人間が一つになれる、分かり合えると本気で思っているのはティモシー・トレッドウェルなどの極めて少数派と思われるわ』

「元々別物だからねぇ」

『そこが重要なのよ。分断ということは、元々は同じだったわけよ。言うなれば同じ穴のムジナであり、そこから生じる争いというのは内ゲバであるわけよ』

「内ゲバなの?」

『そうよ。多くの人間が誤解していると思うけれど、内ゲバなのよ。保守なのかリベラルなのか、自由なのか権威なのか、こういった争いは内ゲバであって、似たもの同士なわけよ。似た者同士の内ゲバが激しくなるのは世の常よ』

「そうなのかなぁ? 確かに極左と極右まで行くと基本回路は『あっちが気に入らん』とか『あいつを批判するオレ、カッケー』の自己陶酔で同じように見えるけど、中道くらいの人達だと違うように見えるけれど」

『同じなのよ。考えてみれば良いわ。この一見、対立する構図と、更に対立する明確な考え方があるのよ。歴史上の人物の言葉にもあるわ』

「歴史上の人物? えー、誰だろう?」


『黒い猫でも白い猫でも鼠を捕るのが良い猫だ、よ』

「鄧小平?」

『そうよ。あとは解説が必要だから詳細は省くけれど、ダヴィド・ベン=グリオンの「それはそれ、これはこれ」的な発想も同じと言えるわね』

「ベン=グリオンについては自分で調べてね」


『……で、俗にいう黒猫白猫論だけど、私はもっと簡単に右手左手論、右足左足論と言いたいわ』

「いや、簡単になっていないよ。意味が分からないよ」

『ボクシングとか格闘技を考えてみるのよ。右手だけとか左手だけで勝つとなると大変でしょ?』

「一応、『左を制するものは世界を制する』という言葉もあるけど、右も使った方がいいよね」

『難しいから理屈も難解になるのよ。反対の手も使えば簡単なのに全部片方だけでやろうとするからね。結果として、こうした思想は無意味に難しくなり、「右はストレートを打つべきか右フックを優先すべきか」というどうでも良いことで内ゲバを繰り返すというわけよ。そして難しくなったものを後から生まれた者は何も考えずに有難がり、無批判に受け入れて本質に気付かないという構図になっているわけ。要はぼーっと生きているというわけよ』

「これを右派とか左派とか中道とか、別の言葉で言い直すから分かりにくくなるわけだね」


「……黒猫と白猫は思想的な手段で、この場合のネズミは理想の社会みたいな目的になるのかな。どうしてそうならないのかな?」

『大きく理由は二つあると考えるわ。まず一つ目は目的自体がはっきりしないことね。理想が何なのかは個々人にとって違うし、宗教や民族が異なると更に変わってくるわ。過去が単純だったかは別にして、現代社会は複雑だからね。そうしたものを考えるのが面倒だから、現状維持を目的にしてしまっているわけよ。例えば日本を世界一の国にしますというのは極めて難しいけれど、今のまま続けていこうというのは簡単だからね』

「現状維持というのはそれぞれの立場にとっての、現状維持でもあるわけだから、これがそのまま進んでいくと自然と分断が広がるということも意味するね」


『二つ目の理由として、どういう政治体制にしても何かをガーッと主張した方が勝ちやすいという厳然たる事実があるのよ。人間は、正しいことをボソボソと言う相手より、間違ったことを自信満々に主張する相手を信じやすいという研究発表があるわ』

「これは中々厄介な話だよね。科学的見地というものは、疑いをさしはさむものだけど、そうなると自信満々に100パーセント正しいとは主張できない。一方、陰謀論なんかは大体正しいと信じ込んでいるわけだからね。だから、科学論と陰謀論が戦った場合、実は陰謀論の方が勝ちやすい」

『陰謀論に対する意見や書籍はあるけれども、その根底に「科学論の方が正しい」というものがあるのが難点ね。今、悠ちゃんが言った通り、「科学論が正しい」というのは科学論的には間違っているわけだからね。どちらかというと「科学論の方がうまくいくケースが多い」くらいの認識に立つ必要があるのではないかと思うわ』

「でも、それだと、頼りないし、味方は増えないね」

『そう。どんな政治体制でも味方が少ないと勝つのは難しいわ』


『……というあたりで今回は終わりにするわ』

「あれ、もう終わり?」

『ここから詳しく突っ込むと際限なく続くことになってしまうわ。それは作者も面倒だし、読む方も大変なうえに長すぎて分からなくなってくるでしょ。別に項目を立てて改めて書くことはあるかもしれないけれど、キリのいいところで引き上げるわ。ただ、要点をまとめるとこんな感じね』



・分断と言う以上、分断前の一つだった時がある。が、それが語られることは少ない

・分断していても、偉い人は上から目線でどっちも従える

・現代はややこしいのでゴールが見えないから目的より手段が大事

・人は威勢の良い人間を信用しがち

・科学論と陰謀論がケンカした場合、実は陰謀論の方が勝ちやすい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る