リアル現代世界を語ってみました
川野遥
第1のテーマ・クマの被害
地球。
この世界の歴史は5人の女神によって管理されていた。
古代、中世、近代、現代に、異世界だ。
5人の女神は天界に自らの部署を設けている。
それぞれの事務所から、自分が担当している世界を管理している。
今、現代世界の天界事務所に2人の人間? が訪れていた。
1人は空中に浮くツインテールの少女で時々点滅している。
もう1人はツッコミの達人という雰囲気を身にまとう少年だ。
「どんな雰囲気なんだ!」
だから、すぐにツッコんでくるそんな雰囲気よ。
少年のツッコミを無視して、少女が口を開く。
『現代の女神が仕事のストレスに耐えきれずに脱走したと聞いて、来てみたけれど……』
「女神なのにメンタル弱すぎのアルバイトみたいだね。事務所には書類が山のように積もっているよ」
事務所には途方に暮れた顔をしている使用人(天使)達と、机の上に陳情書が富士山に届きそうなほど積み上げられている。
「本当に山レベルかい!」
『女神がこれだけ仕事を放置していれば、現代世界が滅茶苦茶になるのも理解できるわね』
「だからといって、何かあったら千瑛ちゃんを呼ぶのも安易すぎて勘弁してほしいけどね」
『そうね。既に中世と近代もやっていて、現代の女神の尻拭いまでさせられるとなっては、私の仕事が増える一方だわ。このままだとこの世界は、天界はどうなってしまうのかしらね』
「あと2年もすれば千瑛ちゃんが完全独裁を達成しそうだね」
『私は楽しいことをしていたいのよ。独裁ごっこでキャッキャウフフするのは幼稚園児のすることだわ』
少女の名前は
少年の名前は
「僕の紹介、おかしくない!?」
『皆の悠ちゃんに対する認識がそれなんだから仕方ないでしょ。世間の評価には素直に従うべきよ』
「……とにかく、それぞれの課題に応じて、みんなを転生させて解決するんだよね」
『いいえ、転生はないわ』
「ないの?」
『考えてみなさい。現代世界よ。既に生きている世界に転生もへったくれもないでしょ』
「えぇぇ。いわゆるやり直し転生的なものはないの?」
『そんな甘やかしは現代にはないのよ。現代世界の女神の仕事は諸問題に対する解決策を提示して、今を生きる人間達にやってもらうことなの。安易に転生に頼らないから、現代担当の女神はワンランク上に置かれているのよ』
「その結果として脱走していたら世話がないけど……」
『まあ、とりあえず仕事にかかりましょう。進めていけば、「あ、こういう話なんだ」とみんなにも分かってもらえるはずだわ』
「そうだね」
『まず第一回目のお便り(陳情)は、東京都にお住まいの
「……第一回のお便りが内輪なのは定番だね」
『「11月に岩手に旅行に行きますが、クマの被害が増えているようで心配です。どうすればいいですか?」というものね』
「何てことだ、もう助からないぞ……。クマの被害は凄いみたいだね」
『……では実際にどんなものなのか、環境省と林野庁の統計を見てみるわよ』
(令和以降のクマによる被害)前がヒグマ、後がツキノワグマ。件数/負傷者/死者数順に。令和7年は9月末時点。最後の数字は福島以外の東北五県のブナの開花指数平均
R1 3/3/0 137/154/1 0.66・大凶作
R2 2/2/0 141/156/2 2.14・並作
R3 9/14/4 71/74/1 1.98・ほぼ並
R4 3/4/0 68/71/2 3.64・やや豊作
R5 6/9/2 192/210/4 0.54・大凶作
R6 3/3/0 79/82/3 3.21・並作
R7 4/4/2 95/104/3 0.44・大凶作
「あれ、今年がめっちゃ多いというほどではない?」
『多いのは間違いないわ。今年に関しては9月末までのデータで、例年10月が一番多いと言われているの。11月も多いから、今年の被害に関してはトータル件数と負傷者で令和5年と同じかそれを超えるかもしれない……過去最多になる可能性もあるわね』
「でも、令和5年そんなに多かった記憶はないね。何となく増えているかなというのはあるけれども」
『人の体感はそんなものよ』
『ということで近年だけ見ると落ち着いているように見おるけど、例えば平成20年くらいと比べると多い年も少ない年も1.5倍くらいに増えているのは間違いないわ』
「やっぱり増えてはいるのかな。あとはブナの開花と大体リンクしている感じ?」
『ドングリがクマの主食というからね。令和2年も開花は良かったけれど、夏から秋にかけて不作だったというわ。だから、ブナの状況と人里への被害はほぼリンクしているわね。今年は過去一番クラスに酷くて、それが影響しているのは間違いないと見るべきよ』
「ちなみに林野庁の資料には開花状況と結実状況の統計があるけど、結実に関しては今年の発表がまだで、作者も面倒くさいから開花の方だけにしているんだよ」
『さて、11月段階では対策も予算も間に合わないだろうから、川野遥はクマに遭わないことを祈るしかないけれど、対策としてはどのようなものがあるか』
「ネットだとハンターを増やそうとか、間引きしようという意見も多いよね」
『そうね。ただ、脅かせば減るのかという点については何とも言い難いわ。作者はクマの生態をあまり知らないけれども、食料がないから出て来ているのはほぼ確実。その前段階で山の中での競争に負けている可能性もありそうで、ある意味では生きるために人里に行くしかないという「無敵のクマ」になっているとも言えるわね』
「無敵のクマかぁ。死ぬか生きるかだと抑止力が働かない可能性はあるよね」
『しかし、それ以前の問題があるようにも見えるわ』
「そうなの?」
『ニュースなどでは人間の居住地域にクマが入り込んできた、とも言っているけれども、問題はクマがその地域を「人間が支配している地域」と認識しているか、ということよ。次に北海道と東北の2010年と2025年の人口を掲載するわ。前者は統計局の数字、後者は(統計局サイトは2023年までなので)国立社会保障・人口問題研究所の数字ね』
(2010年と2025年の都道府県別人口数。前が2010年、後が2025年推計)
北海道 5,488,092 5,092,000
青森県 1,369,629 1,184,000
岩手県 1,324,924 1,163,000
宮城県 2,335,682 2,264,000
秋田県 1,092,603 914,000
山形県 1,162,744 1,026,000
福島県 2,019,618 1,767,000
「北海道と宮城以外は10パーセント以上少なくなっているね。秋田は16%も減ってるよ」
『で、特に被害の多い県でもあるわね。当然、市街地よりも山に近い地域の方が減少はより大きいでしょうから、クマの目には人間がいない……つまり自分達が行ってもいい場所が増えているという認識になるでしょう。自然は冷然と人口減を見つめていると言っても良さそうね』
「人が減っているうえに高齢化も進んでいて、全体的な活気も減っていそうだしね」
『人間の支配地域とみなされていないのなら、仮に一時的にハンターやら自衛隊を集めてドンパチやったら逃げていくけれども』
「その人達がいなくなったらまた戻ってくる、そういうことはありそうだよね」
『仮にクマを減らしたとしても人間の勢力圏という認識にはならないだろうから、別の動物が入ってくるだろうし、ね。となると、解決策はたった一つと言えるわね。たった一つの単純な答えよ』
「出没地域の人口を増やそう、というわけだね……。できれば苦労しないけど」
『人を増やせないならしっかり区画するとか、現代的な建物を作るとか、クマが「ここから向こうは敵地だ」としっかり思わせることが必要ということね。人口減や過疎化を放置した状態がこの事態を招いているという側面もあるはずよ』
『ちなみに作者もびっくりしたけど、秋田県の人口ピークは1980~85年くらいだけど、敗戦直前の1945年にも120万人の人口がいたようよ。疎開してきた人もいたのかもしれないけどね。日本人が一番悲惨だったと認識している年と比較しても75%まで減っているのよ』
「知事が戦争状態という言葉を出していたけど、現代戦では30%減で全滅らしいから、秋田は壊滅状態と言っても良いのかもしれないね」
『近年は全国ワーストの2%に迫る人口減だし、あと5年この状態だと秋田県を解体して住民を青森、岩手、宮城、山形に移住させた方が良いのではないか、なんて議論が出て来るかもしれないわ。テーマが変わるから深くは突っ込まないけど』
「色々なコストとか考えると、ねぇ」
「結局、川野遥は遭遇しないことを祈るしかないのかな?」
『あとは基本的な犯罪対策でしょうね。1人で出歩かない。なるべく大勢の人と一緒に行動する。山や川辺に近づかないといったことでしょう。露天風呂もやめた方がいいわね。宿の方で閉鎖するでしょうけれど』
「まあ、そうだよね。市街地に出没したクマはあまり暴れていないみたいで向こうもビビッている節は見受けられるよね」
『あとはクルマにも気を付けることね。クマの被害が過去最大と言っても、トータルの数字では事故による死傷者の方が遥かに多いのだし。あと地方はスピード出しやすいし』
「自然による被害という点で見ても熱中症の方が被害が大きいのも事実だよね。まあ、クマはともかくお天道様相手には打つ手がないけど」
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