第28話 脱出ルートはどこにある!?
「わぁぁーー!」
塔のてっぺんに着いて、騎士さんに丁寧にリリースされて、ババッと走り出し――
たりはできなかったから、ととと、と何歩かあるいた。よろけなかっただけで上出来。
数百の階段を登って、そのあと昇降機に乗ったあとも、なぜかぼくは騎士さんにホールドされたままだった。ほんと、なぜ。
昇降機がぐーんと上がるとき、ちょっとだけ揺れるから? それとも抱え慣れた荷物的に、下ろすの忘れてた?
ま、でも、おかげで安全。結果おーらいってやつ。
「サファ、こっちに来てごらん。遠くまでよく見える」
「……! はい、ファランさまっ!」
遠くまでよく見える! そう、それこそが今日ぼくが「高いところ」に来たかった理由。
高いとこから見渡して、王宮脱出ルートを探そう作戦だ。
「ふわぁぁぁぁ……!」
目の前に、まるですっごくよくできたミニチュアの世界みたいのが広がっている。
「すごぉぉぉい!」
ビックリして思わず振り返ると、ファランさまは景色を見ないでこっちを見ていた。
そして、お手々がぼくをしっかり捕まえててくれる。
「ファランさま!」
「どうだ。よく見渡せるだろう」
「はい! これ、これ……あの、ぜんぶほんものっ?」
いや、ちがう。それはそうだろって言いながらツッコみかけた。だってほら、あまりにも小さくて、あまりにもきれいに整った光景だったから、つい。
「はは。ああ、ぜんぶ本物だ」
ファランさまは手をちょっと肩から放して、頭をポンポンしてくれる。
……そういえばぼく、なんか今日、ずっと誰かに捕まえられてる?
高いところに行くときは、誰かにホールドされるシステム?
「ほら、あの白い大きな建物の横。緑のなかに、いろいろな色がある場所があるだろう?」
「えっとぉ……あ、はい!」
「あそこが、今はいちばん花がきれいな庭園だ。今度行ってみるか?」
「わー、行きたいですっ!」
「じゃあ、次の行き先は決まりだ」
「はい!」
わぁぁ、ここから見てもあんなにたくさん色が見えるんだから、きっとたくさんお花咲いてるんだろうなぁ。楽しみ!
――じゃなくて!
今日の目的を忘れたらダメ!
「ファランさま! これぇ、どこまでが王宮なんですかぁ?」
まずは王宮の範囲確認。なにげなく、なーんにも考えてないふうに!
「そうだな。まず、あそこに白い城壁と大きな門が見えるだろう?」
「……はい」
こないだ、迷子のフリして行き着いたとこだ。
「あそこから先が、政務……父上や大臣、宰相や政務官などが政治を行うところだ」
「はい」
「その先……ほら、向こうの薄い灰色の壁の先が王宮で働く者たちの居住区域。その先、少し低い灰色のかべの向こうが貴族の居住区だ」
「はぇぇ……」
ここから見ても結構きょりあるね……。
「その先の高い壁の向こうが、職人街、商業区と続いている」
「……え、どこまでですか?」
「そうだな。ここから見える一番先のあたりが、商業区の終わりくらいだろう」
「えっ……」
王宮の外、見えもしない的なこと!? 王宮に一番近い町でも、チラッとも見えないの?
こんな高いとこまで来ても?
「ま……街とか、見えないんですか……?」
そんな馬鹿な……。
「ああ、そうだな。王宮全体の範囲が広いからな。街の辺りは少々見えにく……ここからは、見えないようだな」
見えないって認められちゃった。無念……。
「と……遠いんですね。街って……」
まさかここまできて、見えもしないとは……くっ……。
「そうだな。王宮の外へ出るには、これらの区域をすべて抜ける必要があるし、距離もそれなりにある」
……い、いや。諦めちゃダメ! 遠くたっていけないことはないはず。まずは通れそうなルートをさがすんだっ!
えーっと、どこかスルッと通れそうな道は――
「ファランさま、あの白い壁の横の道ってどこに行くんですかー?」
さりげなく、ただの好奇心です、みたいな顔で、心臓はどきどきだ。脱出ルートを探してることがバレたら、ちょう大変。
「ん……ああ。あれは王宮の裏手に続く道だな」
おっ! もしかして、裏口からぬるっと行ける道とか……?
「少し行くと兵舎がある。王宮の騎士専用の通路だな」
「な、なるほどぉ……」
……めちゃダメそう。騎士さんに速攻見つかっちゃうやつだ。
えっとじゃあ、他には……
「あそこの、少し大きな建物はなんですかぁ? あれだけポツン、てあるんですねー?」
なんか、あんまり使われてない倉庫とか、そんなんだったりしないかな? 人目につかないところだったら、そこから――
「ああ、あれは、高位の政務官や事務官が、秘密の会議を行う場所だな」
「あ……そ、そんなところがあるんですねー、はは、すごーい」
秘密の会議……ぜーったい警備がきびしいやつ
いや、他になんか――
「あ! じゃあ、あっち側の白くてカチッとしてポツーンな倉庫みたいのはなんですかー?」
「あれは、宝物庫だな。管理が厳しいので、限られたものしか近づけないところだ」
はーーい、いちばん警備きつそーなとこでしたー!
「えっと……じゃあ、あっちのちょっと森みたいになってるのはなんですか……?」
まぁ、なんかちょっと森の向こうに見えてるけど、一応……いちおうね。
「ああ、あれは要塞の入口だな。軍の司令部へ続いている。
「へ……へぇぇ、い……いろいろあるんですねー、すごーい……」
すごーい、の声がちょっと震えた。
王宮の外は見えないほど遠くて、抜け道になりそうな道もない。
……まぁ、あるわけないよね。あるわけないし、サクッと見つかるわけないよね。こんな厳重な王宮から抜け出す道なんて。
「……はぁぁ」
……どうしよう、希望が持てない。
「ん? どうした、サファ。疲れたか?」
あぁぁぁ、しまった……。無意識の特大ため息で、ファランさまを心配させてしまった。
もうしわけない。我儘言ってここまで連れてきてもらって、あれこれ説明までしてもらったうえで、こんなわかりやすくがっかりしてしまうとは。
恩を仇で返すとはまさにこのこと。
ううう……これで、嫌われたりしたらもう終わり。
ふぇぇぇ……って落ち込んでる場合じゃない。なんとかしないとっ!
「あ、あの……だ、だいじょうぶです。ただ――」
「ただ、どうした?」
あーー、なんでぼくはよけいなこと、付け加えたのぉおぉ。ただ、とかなんで言ったのぉぉ!?
と、とにかくなんか言わないとっ!
「あ、あの……ファランさまって、ときどき王宮の外に出られるって聞いていたから……」
なんとかひねりだしたけど、これで誤魔化せるう?
「ああ、公務の手伝いのことか。そうだな、たまに出向くことがあるが」
それがどうしたの?って顔で見られてる。こ、ここからが勝負。
「それでなんか……あんな見えないくらい遠くに行くの、とっても大変そうだなぁって思って……」
ご、誤魔化せたかな……?
「…………」
あれ? ちら、と見え上げたファランさまの顔は、ちょっと固まっている。
ひえっ、もしかしてバレた? なんかテキトーなこと言ってるなこいつ、ってなったぁぁ?
「そうか……心配してくれたのか」
固まってた顔がふわっとなって、ニコッとなった。
「大丈夫だ。何も心配ない。しかし……」
ファランさまの目が、じぃぃっとぼくを見る。
え、なんですかぁ? そのピュアピュアきらきらっなお目々は……。
「やさしいのだな、サファは」
「……いえ」
「ありがとう」
くっ……! ニコニコで頭を撫でられて、ちょっと心がチクッとなる。こ、これは罪悪感というやつ。ぼくはテキトーにごまかそーとしただけなのに。
「ほ、ほんとにたいしたことない……ですか?」
チクッとなりながらも、追加情報を仕入れたい気持ちを捨てられないぼく。
「ああ。馬車があれば、30分ほどで王宮の外だ」
「……なるほどぉぉ、馬車で30分」
きびしぃぃけど、歩けなくはない距離……?
「ああ、魔法の馬車があれば大抵どこへでもひとっ飛びだ」
ん?
「――ま、ほうの馬車!?」
って、もしかしてあれ? ガタゴトお馬さんがひっぱるやつじゃなくて、ペガサスみたいな魔法のお馬さんでびゅーんって飛ぶやつ……?
「ああ、普通の馬車なら半日はかかるがな」
「は……んにち」
脳内でガーーーンと、どデカ鐘が鳴り響いた。
馬車で半日なら、5才が走ってたら何日――
っていうか、ああーーーん、ぜえぇぇっっったい、途中で力尽きるやつーー!!
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