黒丸の推し活(枕草子「陰陽師のもとなる小童べこそ」より)/黒丸、張り切る

 ツクヨムの「近況帳面ノート」が更新された。

 筆者は「せいこ」。


『今宵、新作を公開します』


 安倍晴明あべのせいめいの式神・黒丸は夜が待ちきれなかった。

 黒丸は「阿倍野あべの生命せいめい」の次に、彼女を贔屓にフォローしていた。

 瑞々しい感性、鋭い観察眼、率直な発言。

 読むと気分が爽快だ。

 もちろん「よきかな応援」と「星」も欠かさない。

 気づけば「文箱作品フォロー」が山盛りだった。


 さて、待ちに待った更新の刻限となった。

 新作の題名は――【陰陽師さんちの小童べちゃんは】

 黒丸はどきりとした。

 どちらの陰陽師様のことかはわからないが、なんだか身近な話題だ。

 黒丸は早速頁をめくった。




【陰陽師さんちの小童べちゃんは】


 陰陽師さんちの小童べちゃんは、とてもよく気が利く子だ。

 まだ子どもなのに、なんでも心得ている。

 陰陽師さんがお祓いで祭文を読み上げているとき、ほかの人はただぼんやり聞いているばかりだけれど、小童べちゃんはそうじゃない。

「水を――」

 陰陽師さんがまだそう言わないうちから、小童べちゃんはさっと駆けてって水を用意するの。

 段取りもきちんとわきまえているのだから、本当に感心する。

 主人に余計な口をひらかせない。

 まったくうらやましいことよ。

 あんないい子、わたしも雇ってみたいな。




 読み終えた黒丸は、胸が高鳴った。


 ――せいこ様が絶賛する「小童べ」のような子に自分もなりたい!


 ちょうどいま、屋敷の庭では晴明が祈りを捧げていた。

 土に跪き、月を仰いで祭文を唱える晴明。

 脇に白丸が控えている。

 これは好機!

 黒丸は井戸へ駆けた。


 つるべを落とす。

 縄を手繰る。

 ちゃぷん、と水音。

 汲んだ水を手桶に移す。

 すわ、白丸が腰を浮かせた。

 こちらに来るぞ。

 急げ、黒丸!

 井戸水を満たした手桶を抱え、黒丸は目を輝かせて晴明のもとに走った。


「晴明様! お水を――!」


 黒丸が石につまずいた。

 その拍子に手桶が飛んだ。

 高く上がった手桶。

 白丸がとっさに手を出す。

 だが手桶は白丸の手をそれた。


「晴明様、危ない!!」


 晴明が頭から水をかぶった。

 つづいて手桶が頭に当たって、いとよき音をたてた。


「…………黒丸」


 哀れ、晴明。

 かくも濡れそぼりたる姿を見るぞこころぐるしき。



 

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