ツクヨム陰陽録

猫小路葵

【ログインはこちら】/突如、都に小説投稿サイト現る

 ある日の都大路に現れた怪異である。

 空がざわめいた。

 風が止まり、雀が黙る。

 そこに誰かの声が聞こえた。


「やべ、バグった」


 ――いと怪し。

 その言バグるの生まるるは、なお千年のちなるを。




 突如、朱雀門の近くに青色の門が現れた。

 門の上には四角い印が浮かび、奇妙な文字でこう示されている。


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 都は大騒ぎになった。

 人だかりができ、牛車をとめて様子をうかがう者もいる。

 その中には好奇心旺盛な清少納言や紫式部の姿もあった。


「まさしく異界のもの!」

「鬼のしわざかしら……」


 ただちに陰陽師・安倍晴明あべのせいめいが呼び出された。

 晴明は式神を二体、召喚した。

 式神一号・白丸は無口で冷静沈着。

 二号・黒丸は、やる気は満々、ただしおつむが少々心もとない。

 晴明は二人を連れ、門の中に足を踏み入れた。


「こ、これは……!?」


 晴明は袂で顔を覆った。

 門の中には数えきれない「ふだ」が宙を舞っている。

 黒丸の顔にその一枚が張り付いて、黒丸はあたふたした。


「晴明様、取れませぬ!」

「落ち着け、黒丸」


 晴明が張り付いた札を取ってやった。

 札は再び宙へ舞い上がった。


「ふぅ……助かりました、晴明様! こやつらはどなたかの式神でしょうか!?」

「晴明様、油断あそばすな。物の怪やもしれませぬ」

「しかし、我らを攻撃してくるわけではないようだが……」


 白丸が地を蹴る。

 飛び交う札の一枚をつかんで見せた。


「#SF……?」

「意味がわからぬ……」

「この印だけでも、ざっと壱萬枚はありましょう」


 そのとき背後で、女の声が響いた。


「規約に同意する!」


 振り返る晴明たち。

 声の主は清少納言だった。


「だめだ、まだ来てはならぬ!」


 慌てる晴明。

 白丸が飛んだ。

 黒丸も飛ぼうとしたが、すべってころんだ。

 清少納言は次に出た文字を叩いた。

 光が弾けて、文字が変わった。


 ――会員登録、完了




 晴明の読みにより、門の文字は「つくよむ」と判明した。


「つくよむ……月読つくよみか!」

「おお、神の門であったか!」

「いと尊き門にございまする!」


 清少納言を皮切りに、皆がつぎつぎに登録した。

 突如現れた謎の青門【ツクヨム】は、都の文化人をたちまち虜にした。 


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 ユーザー名:せいこ/エッセイ・ノンフィクション

 プロフィール:

 随筆をものします。人間観察が好き。好きなものは好きと言える女人でありたい。

 代表作:枕草子シリーズ

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 ユーザー名:むらさき/恋愛、歴史・時代・伝奇

 プロフィール:

 想いをかたちに……

 代表作:源氏物語(連載中)

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 そして、この人も。


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 ユーザー名:阿倍野生命/ホラー、現代ドラマ

 プロフィール:

 怪異譚多め。たまに内裏の人間模様も。当方、大阪市阿倍野区の保険会社ではありません(笑)

 代表作:陰陽師さんと式神くん

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 その年、ツクヨム門では「ツクヨム短歌賞」なる祭りが催された。

 都の登録者数は一気に増え、投稿が白熱したのは言ふも更なり。



 

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