第3話 パンチュ

 まぁ、そういうのが俺ね。


 ところで、俺が着たのは退魔の鎧とかっていうやつらしい。

 みんなこれ知ってた? なんで教えてくれないの?


 もうきらい! ぷんぷん!

 あーっ違う! うそうそ!

 だいちゅき! ぷりぷり!


「……あの、パーティーチューンさん……」

「俺の苗字長いからパンチュでいいよ」

「いいわけねぇだろ……」


 俺のフルネームは「ラフ・イズ・パーティーチューン」。


 イズっていうのは世共政府の創始者「イズ・スウィフト」から取ったもので、要するに「この人間は世共政府に所属していますよ」っていう証みたいなものらしい。


 契約書にハンコを押した途端に名前がラフ・イズ・パーティーチューンになっちったよーん。かなしいよね。名付けの親が泣いてるぞ。


 ちなみに俺の名付け親は奴隷商人。

 いつも笑ってっからラフらしい。ありがたい話し!!


「パンチュがいやならラフだけど」

「じゃあ、その……ラフさんは、これからどうするおつもり?」

「うんちしたい」

「はい……」


 やったー!


「ありがと♡ やさしいね♡ てかトイレ何処?」

「あっ……外です」

「じゃあ裸で出ちゃ駄目じゃんね」


 俺はもう一度退魔の鎧を着装した。


「あのさぁ~……オチンポ隠しに国宝使うなよー」

「ごめーん。今だけ! 今だけ!」

「マジで駄目。今服貰ってくるからそれ着てくださいよ」


 そんな事を高身長の美女が言って部屋から出てった。


 そうしていると、緑髪のお嬢さんが訊ねてくる。


「男の人が好き、とかですか?」

「なんで?」

「いえ、ほら、あの、この状況なのにそれがあれですから」


 これがあれだから性的魅力を感じる対象が同性なのでは?

 というのがお嬢さんの考えらしい。


 安直〜!!


「初めて人を斬った時からこれがあれだよ」

「ああ、精神的な……普通に可哀想……」

「でしょ〜? 俺マッジでかわいそうなんだよね!」

「ラフさんは……どうして剣士に?」

「俺、元奴隷なんだよね。んで、俺ある日買われたの。剣士に。そして、なんがその人、後継者が欲しかったらしくて。俺はそれね」

「はぁ……流派はどちらで?」

「カラザ紫灯しとん流。ドマイナーっしょ? 俺も聞いたことないから、マジで後継者不足だったらしい」

「いるんですか? 後継者」


 おっ! 失礼な質問! みんなはこういう質問をする人になってはならないよ。パンチュさんとのお約束ね。


「いやぁいないっす。そもそも俺、殺人剣なんか廃れてもいいと思ってんすよねぇ。ここだけのお話ね」

「なぜですか、剣術って伝承として価値高いですよ」

「……誰にも知ってほしくないのよね。あの感覚は……」

「えっ」

「まっ、この話はあとにしてさ。俺、宿屋にギター置きっぱなしにしてたんだけど、宿屋の鍵とか地底湖に置きっぱなしにしてきちゃったよ〜ん」

「後で拾いにいきますか? 服の中に置きっぱなしとかですか?」

「いや、たぶん……あれだな、地底湖の底」

「じゃあだいぶ無理そうですね。だいぶデカい水溜りなんで」

「っつーかここ人口すごいけど、人の重さで地盤が沈没とかそういう心配ってないの?」


 俺はこの際だから気になってたことを聞いてみた。

 俺しばらくこの街にいる予定だからね。


「それはたぶん大丈夫です。なんか、大丈夫らしいです」

「あ! 俺がバカだと思って説明省いたろ! そういう気が利く人、俺って大好き♡ お友達になりましょう。気が向いたら助けに行ってあげる」

「ありがとうございます」


 美女が帰ってきた。


「研究所内で一番体格の大きい人から借りた服だからぶかぶかかも」

「まじせんちゅー」

「センキューは聞いたことあるけどせんちゅーってなに」

「知らないほうがいい……」

「マジで何?」


 普通に噛んだだけだよね。

 んで、服を着る。


「なんか逆に恥ずかしい」

「わかります。私も週末は公園で露出とかしてるんですけど……」


 研究員のデルタちゃんと言うらしいお嬢さんが言う。

 服着るとなんかはずかしい、って。


「それ犯罪じゃね……?」

「梯子を外されても困りますよ」

「梯子かけた憶えねーもん」

「その梯子トリックアートだよ、デルタさん」


 通報されたら困ることはあんまりやらないほうがいいよね。

 これ、今日の教訓。

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無剣の退魔 蟹谷梅次 @xxx_neo

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