砂の惑星 二話目「取捨」
「うわぁ〜見たことない物がいっぱいだ...」
口をぽかんと開けてあまりの街の大きさに驚きながら僕は見惚れるように街を眺めていた。地面は固まってて黒くてなんだか硬いし、大きくて四角い建物やさっきシャンと話していた車もあった。もちろん動くことはなかったが。
僕は体がウズウズしてもっと近くで見たくなってしまい走り回った。
「すごいすごい!あの大きな建物は木で出来てるのかな」
「あ、あっちにはカラフルで変な形のものがあるよ。何で使われてたのかな」
「うへぇ...ゴキブリがいるや...」
「ほら!さっき話してた車もあるよ!ここすごいね!」
僕は近くにあった車に駆け寄った。ガラスにはヒビが入っていてタイヤもパンクしているがそんなの関係なく僕は中を覗こうとした。
「ヒビで中が見えないや。シャン!ほら中には何があるんだろうね!」
僕は一度シャンの方に振り向き車のドアを開け、再び車のドアに視線を戻した。
「うわぁぁっ!」
その瞬間僕は大きく体を震わせ腰が抜けてその場にへたり込んだ。シャンは大丈夫か!と叫びながら僕の方に向かってきた。
「し...しっ...した...ほ...」
僕は驚きでうまく言葉も紡げなかった。するとシャンが追いつき、ナイフを手に持ちながら車の中を覗き込むと大きなため息を吐いた。
「何だ死体か」
「何だじゃないよ!びっくりしたんだからね!」
車の中には骨だけになっている人間の骨があった。頭蓋骨にぽっかり空いた2つの穴からは暗くて何も見えず、なんだか僕のことを見ているようでとても怖かった。
「一面中砂だらけなんだから。生活できなくて死ぬ人間なんてどこにでもいるさ」
「うん...そうだね...僕も驚いただけだから」
「しかも人間の骨は硬いからもしかしたらハンマー代わりになるかもだから持っていこう」
「それはだめ!」
僕が血相を変えてそう言うとシャンはニヤニヤしながら
「アラン、もしかして怖がってるのか?」
とシャンが僕をからかってきた。僕は違うよ!ハンマーなんて使わないからいらないの!と言い訳を並べるが正直なところ図星だった。
僕達はビルの方には行かず一階建ての大きな建物に向かった。シャンが言うにはスーパーと言って昔はたくさんの食材が売られていたらしい。
「ねー、ほんとにここに食料なんてあるの?」
スーパーの中は棚しかなくてどれもすっからかんだった。僕が悪態をついているのを無視してシャンは食料を探していると小さくて茶色い箱があった。
シャンがその箱の中を開けるとシャンが目を輝かせる。
「アラン、缶詰だ!しかもこんなにいっぱいあるぞ!」
「ほんと!?」
身を乗り出して僕は箱の中を覗いた。そこには魚のイラストの描かれている缶詰が大量に入っていた。
「なんでこんなにいっぱい缶詰があるの?僕達より前に来た人でも見つけられそうだけど...」
シャンは缶詰の文字がいっぱい書かれているとこを見ていた。僕はそれを真似るように缶詰の一つを手に取りよく観察した。
「なんて読むんだろ...えと...しゅーるすと...」
「シュールストレミングだ。多分不味すぎてここに来たやつは皆手をつけなかったんだろう」
「え〜、不味いの...」
僕は舌を出して嫌そうな顔をした。
「物は試しだ。食ってみろよ」
そう言ってシャンは缶詰をナイフで開けた。
プシュッと音がなった瞬間、スーパーに今まで嗅いだことのないような異臭が漂ってきた。
僕はその臭さに嗚咽を漏らして急いで鼻をつまんだ。
「シャン!その缶詰腐ってるよ!早く捨てて!」
「腐ってねえよ。そういう食いもんなんだ」
シャンはナイフでさらに缶詰を開けて僕の方に近づけてきた。あまりの臭さに頭がくらくらした。
「ほら、ここの数字見てみろよ。これは賞味期限っつってな。この日を超えると美味しくなくなるんだ。なんて書いてるか分かるか?」
「2033の...9と17だね。これが日付って言うの?けど、僕たちは今が何日なのかも分かんないよ。ほんとにそれ食べれるの?」
「お前が数字が読めるか確かめただけだよ。缶詰は開けずに保存しとけば何年経っても食えるんだ」
そう言いシャンはナイフでほじくり、魚なのかも分からない異臭の放つそれを食べ始めた。
「美味しいの...?それ...」
「最初は俺も吐いたけど慣れれば普通だ。俺達は生きるために食うんだ。何かを糧にしなきゃ生き物は...人間は生きていけない。とりあえず食えよ」
「しょうがないなぁ...」
差し出されたナイフを手に取り僕はそれを口に含んだ。――その日は何を食べても全部臭かった。
シャンは臭い魚の缶詰を数個自分のリュックに入れて僕達は別の建物へと向かった。その建物はとても大きくて僕が目を輝かせているとシャンはこの建物が病院だということを教えてくれた。
本に載ってたものとはちょっと違うけどやっぱり本で見ていたものが現実で見れると言葉には言い表せない高揚感と興奮で胸がいっぱいだった。
病院の中は比較的綺麗でシャンはここから包帯とか医薬品を集めるらしい。死体があるかもだから気をつけろよ、と言われ体が少し震えたがさっきみたいに取り乱さないよう僕は気を引き締めた。
シャンが部屋のドアを開けておくに進むと鼻の奥がツンとするような匂いに包まれた。シャンは歩みを止めずに前へと進んでいった。ベッドからは骨だけになった人がいたりカーテン奥からさっきの缶詰のような匂いがしたりと吐き気が込み上げてきたがそれを必死に抑えた。
「ここにいる奴らも薬とかを求めてここに来たんだろう。ま、病に完全に侵されてて大した効き目もなかっただろうがな」
シャンは怖がることもなく死体に近づき散乱している薬品箱や棚をあさり自分のリュックに入れていった。
「僕も持つよ」
「いや、いい。お前が歩けなくなるともっと効率が悪くなるからな」
「子供扱いしないでよ」
「子供だろ」
僕が口を尖らせてちぇ...と悪態をついていると遠くからか細いうめき声のようなものが聞こえてきた。
僕は人がいるかも知れないと思い反射的に駆け出した。シャンは僕の突然の行動におい!と呼び止めるが僕は声のする方に向かった。
うめき声のするところまでやってきて僕は息を整えて、カーテンを恐る恐る開けた。
そこには一人の人間がいた。男か女なのかも分からないほどその体はひどく痩せこけていて皮と骨しかなかった。髪はほとんどが抜け落ちていて目を開けることすらできないほどに体は疲弊していた。
「まだ生きてる人間がいたんだな」
後から追いついてきたシャンがカーテンから顔を覗きそいつの顔を見た。
「うぅ...め.........し...」
「ああ、恐らく食料がなかったんだろう。病気でもないのに薬なんかを使った結果だな」
「じゃあ何か食べさせないと!」
僕はリュックから道端に偶然落ちていたビーフジャーキーを取り出してそいつに食べさせようとした。するとシャンの手が僕の手をそっと握った。
「何してるの!こいつ、今にも死にそうだよ!」
「死にそうだからだ。アラン、よく考えろ。こいつに食わせたところで栄養が回る前に死ぬかもしれないぞ」
「でも助かるかもだよ!それに人が多いほうがいいでしょ!」
「結局、助かってもこいつが協力するとは限らない。空腹で頭が狂ってるかもしれない。それに食料だってこいつの分を集めなきゃならないんだ」
「けど...」
「...この世界で生きるならまず自分のことに集中しろ。その食料で生きれる時間は大きく変わる。他人なんて後回しだ」
「じゃあなんでシャンは僕のことを育てたの?」
僕の質問にシャンの言葉が詰まる。
「―――ただの自己満だ。誰かを助けてその優越感に浸りたかっただけなのかもな...」
「...そっか」
僕はこれ以上シャンを困らせてはいけないと考えそう呟いた。シャンは僕に別のところに探索しに行けと言われそいつとシャンに背を向ける。
別の部屋に向かう途中、シャンが何かを言った気がしたがその声はうめき声でかき消される。
その数十秒後、僕が別の部屋に行ったからなのか僕の耳にそいつのうめき声が聞こえることはなかった。
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