砂の惑星
変はります
砂の惑星 一話目「シャンとアラン」
肌を刺すような寒さに僕は身震いをして水気の一つない薪を取り出して暖炉に放り込んだ。僕はシャンの帰りを待ちながら薄い毛布にくるまり必死に寒さに耐えた。
おんぼろの小屋にはテーブルと椅子、暖炉そして一冊の本しかなかった。本はもう飽きるほど読んだしどれも見たことのないものが多くてほんとにこの世界に存在するのか疑っているぐらいだ。
僕は横になり本の表紙を眺めているとドアが開く音がしてそっちに視線が向けた。そこには薪や少し大きなネズミのような動物を持っているシャンがいた。僕は立ち上がりシャンのもとへ駆け寄った。
「シャン帰ってきた!なにそれ?」
「これもネズミだよ。けどちょっとでかいからこれでしばらくは暮らせるな」
シャンは砂を払いながら答えた。僕はまたネズミか、とワクワクしていた気持ちをしまい込んだ。
シャンは暖炉に近づきネズミを細い木の棒に刺しご飯を作ろうとしていた。
「アラン、言葉はもう覚えられたか。その本、ちゃんと読んでんのか」
「どっちも覚えちゃったよ。この本読みすぎてもうつまんない」
口をすぼめて少し不貞腐れたように言うとシャンがそう言うなよ、と笑った。
そうして静かにシャンは焼かれているネズミを眺め、僕は本を胸に置き天井を眺めた。暖炉の火のパチパチという音の中シャンが静かに口を開いた。
「じゃあそろそろ外に出るか」
その言葉に僕は飛び起きた。
「ほんと!?」
「ああ、もう十分大きくなったし言葉も覚えられたんだから大丈夫だろ」
「いつ行くの!どこ行くの!」
僕がぴょんぴょんと飛び跳ねながら尋ねるとシャンはネズミを切り分けて僕に大きい方の肉を渡してきた。
「明日の朝に行こう。寒いからな。どこに行くかは...分からない。とにかく遠くだ」
「わかった!じゃあ今日準備するね!」
「――本は置いてけよ。荷物がかさばるから」
「え〜。それじゃあ動物とかの名前分かんないじゃん」
「覚えたんじゃないのか」
僕はその言葉にハッとして覚えてるからいらないよ!と言い直した。
シャンは笑いながら明日に備えて早く寝ろよ、と言った。僕は明日が待ちきれなかった。
――翌朝、僕とシャンはいっぱい服を着てリュックを背負った。僕のリュックはほとんどすっからかんだ。ご飯とかはシャンが持っていた。暖炉がなくてちょっと寒いけどそんなの気にならないくらい僕はワクワクしていたんだ。
「こっちの方に行けば少しずつ暖かくなってくる。ちょうどいい気温のとこで横に方向を変えるからな。長い旅になるからちゃんとついてこいよ」
「うん!わかった!」
そう言い、僕達は小さな小屋を出て、遠くの砂漠へと足を踏み出した。砂を蹴るたびに冷たい風が頬を刺すが僕は新たな冒険に胸を躍らせた。
「もう疲れたよ〜」
「おいおい、もうギブアップかよ」
僕は膝に手をおいてハァハァ...と息を切らしていた。一面砂だらけで全く目新しいものもなくてすぐに飽きてしまって体も心もすっかり疲弊していた。
「このままずっと砂だけなの...?」
「心配するな。ここはいつも俺が探索してたとこだから何も無いだけだ。あと一時間もしたら景色も変わるさ」
「1時間も...」
シャンの言葉にさらに肩を落としたが景色が変わることに少しだけやる気が出て僕は再び歩き出した。
「わあ〜!すごいでっかい木だよ!」
僕は大きな枯れ木に駆け寄って木に抱きつく。
「僕一人じゃ抱えきれないや」
「こんなでかいのは珍しいな。少し枝を切って薪にするからアランも手伝え」
「うん!」
僕はシャンに肩車されてナイフを手に持ち枝に手を伸ばした。下の方では気をつけろよ、とシャンが言ってきた。僕は危なげなく枝を数本切ってシャンのリュックに入れた。
ある程度枝を取れたので僕達はまた歩き出した。
「ここらへんは木ばっかだね」
「そうだな、サボテンとかがあれば食料にもなったんだがな」
「じゃあもっと先に進もうよ!きっと色んな物がいっぱいあるよ!」
そう言って僕は砂が立ち込める遠くの方を指差して歩く速度を上げた。
少し歩き進めると砂嵐が吹き荒れ始め、僕はシャンに促されフードを被り服の布を少しちぎって口に当てた。
「これどのくらい続くの?」
「分からない。短いかもしれないし長いかもしれない」
「じゃあ話して暇つぶししようよ」
僕はシャンに聞こえるよう大きな声で話した。
「シャンは車とか見たことある?ほら、本にあった大きな金属の」
「たくさん見たことあるぞ。ただどれも動いてなくて壊れてたな」
「なんで動いてないの?」
「車にはガソリンってやつがいるんだ。それで動いてるんだとよ」
前までシャンはいつも物資を取りに外に行っていたから久しぶりにシャンと話す事ができて僕は楽しそうに会話を続けた。
「シャンは僕と会う前はこんな感じで旅してたんでしょ?なんか面白いものとかあった?」
シャンは考え込むようにうーん、と唸っていた。
「例えば...水がいっぱいある小さな国とかか」
「そんなところがあるの!?」
「ああ、国の真ん中に大きな水たまりがあってそこから国王が色んな人に水を分け与えているんだ。俺も一度行ったことがある」
「じゃあなんでそこに住まなかったの」
「そこの水は無限に増えるわけじゃない。俺はもっと過ごしやすい場所を探して旅をしているんだ」
「そんなところがあるの?」
「――昔俺と旅をしていたやつが言っていたんだ。そいつが...」
シャンがそう言いかけた時、突然砂嵐が消え去り、視界が晴れ、眼の前には廃れた大きな街が広がっていた。
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