二章 野良犬の末路

 反乱軍の追手部隊が河辺の村に布陣して2日。


交代で見張り続けるが、一向にレイラたちは姿を現さない。


とうとう痺れを切らして、追手の隊長はロウジィを問いただした。


「どうなっている。ここに来るんじゃなかったのか?」

「き、来ます。絶対、来ます。

ロウジィの占いは、今まで1回も外れたことがないんです」


声に潜む怒りに怯えながら、ロウジィは縋りつくように訴える。



 占い専門の魔女は、当てて当たり前。


神の定めが上書きされることなど知らないロウジィは、待ってさえいれば占い通りになると思い込んでいた。


日が昇っては沈むことを誰も疑わないように、

ロウジィにはそもそも占いが外れるという発想がない。


だからもうすぐ当たると訴え続ける。


しかし、それはあくまでロウジィから見ての話である。


「……貴様も、間者だったか」

「ちがいます!ロウジィの占いは外れません!

あと、あと少し待っていれば……」

「くどい!」


隊長に払い除けられ、小さく華奢な身体は簡単に地面に転がった。


大事に抱えていた小皿から、銀貨が散らばる。


地面に打ちつけられた痛みを堪え、足音を頼りに隊長に駆け寄る。


「ま、待って……必ず、来ますから……」

「見破られても足止めを続けようとは、大した忠義だな。さぞ大金を積まれたのだろう」

「ちがうんです!信じてください!」

「ええい、黙れ!」


蹴り飛ばされ、再び地面に這う。


痛みと困惑で、視えない目から涙が溢れた。


「その銀貨は手切れにくれてやる。二度と姿を見せるな、卑しい乞食め!」


去っていく足音が聞こえる。ようやく、ロウジィは己の身に起きたことを受け入れた。


棄てられたのだ。占いを外したから。


生まれて初めて、占いを外したから。


悔しさと、哀しさと、困惑の混ざった嗚咽をもらしながら、震える手で小皿を拾う。


空っぽの小皿に涙の落ちる音だけが、ロウジィの耳に入った。


「どうして……?どうして、外れたの……?

やっと、やっと必要としてもらえたのに。

拾ってもらえたのに……」


今まで何でも教えてくれた福音は、今に限って答えない。


どんな音からも拾っていた天啓を、もはや信じる事など出来なくなっていた。



 足音が、突如耳に迫る。



軍靴の音ではない。今どき素足で歩くような僅かな音。


盲目で聴覚の敏感なロウジィは、その音を耳聡く拾った。


ひたっ、ひたっ……と足音は近づく。


「お主が、福音の魔女ロウジィじゃな?」

「……どなた、ですか?」

「探査の魔女コーディア。お主と同業じゃよ」


コーディアは地面に散らばる銀貨を拾い集め、

ロウジィの小皿に入れる。


「お主に会いに来たのじゃが……どうして泣いておるのじゃ?妾でよければ話を聞くぞ?」

「コーディア、様……ロウジィは、ロウジィは……うぅっ……占いを、外しちゃって……グスッ……」


嗚咽混じりに語るロウジィの頭を優しく撫でながら、ひと言ひと言に相槌を打つ。


あらかたの事情を聞いて、泣き続けるロウジィを抱き寄せた。


「お主は何も悪くない。何も、悪くないのじゃ。大丈夫じゃよ、妾はお主の苦しみを分かってやれる」

「コーディア様……コーディア様ぁぁぁ!」


コーディアの温かい言葉に、ロウジィは耐えきれず泣きついた。


そんなロウジィを受け入れて、慈しみを込めて抱きしめる。


 優しい言葉と温かな腕に包まれて、盲目の少女はただただ泣き続ける。




 その無垢で儚い姿を、コーディアが獲物を見る目で眺めていることなど気づかずに……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る