二章 医術師の矜持、占い師の誠意
玄関扉を開けて、シフキが顔を出す。
レイラを心配して落ち着かない様子だった近衛たちが、音に気づいて一斉に振り返った。
「……もう大丈夫だ。1日か2日は目覚めないだろうけど、複製した血が馴染んで血流が正常に戻れば意識も回復するよ」
各々が安堵の息を漏らす中、アズラエラは恐る恐るシフキの視界に入る。
「あ、あの、し、シフキ。……姫様を助けてくれて、ありがとうございます」
目をぎゅっと閉じて歯を食いしばりながら、しかし深々と頭を下げた。
いつも通り吃りがちなアズラエラに戻っているのを見て、シフキは己を黙らせたときのトリックをおおよそ理解した。
「……そのウジウジした喋り方イライラするから、いっそのこと毎回練習しとけクソナメクジ」
「なっ!?ひ、ひひ、人がせっかく素直に、お、お礼言ってるのに!こ、このしょ、性悪女!!」
「やっぱりそういうことだったか。お前のジメジメした性根につける薬があるわけないもんね。
化けの皮が薄っぺらいんだよナメクジ。
やーいやーい、ナーメークージー」
「うぅぅぅっ……ば、バカ!ああ、アホ!ポ、ポンコツー!」
「ポンコツはお前もだろうがクソナメクジ!岩塩に頭ぶつけて死ね!」
貧弱な
「シフキ殿。レイラ殿下を救ってくださったこと、深く感謝いたします。本当に、ありがとうございました」
「……あぁ、いや。医術師として当然のことをしたまでよ」
自分との態度の違いにワナワナと震えるアズラエラをマリーがなだめるうちに、シフキに案内されて近衛たちはシフキの家にあがる。
「ポピーは疲れてたから休ませてるよ。お姫様の面倒はアタシが見ておくから、ナメクジ以外はゆっくり休んでて」
「かたじけない」
「助かりました、シフキ殿。ありがとう」
近衛たちが家の中に入りひと息ついている間に、シフキは未だ外に居るアズラエラのもとに行った。
ブツブツとシフキへの呪詛を垂れ流しながら、アズラエラは鍋に宝石をひとつひとつ雑に投げ込んでいる。
「で、お前は何やってんだよナメクジ」
「お、お前には、関係ありません。……あるけど」
鍋に張った水の波紋を眺め、何かを手元の平べったい石に刻み込むと、シフキめがけて思い切り投げつけた。
力が足りず足もとに転がったそれを拾う。
そこに書かれていたのは、数年後の時間と場所、そして死因。
「……これで、か、貸し借り無しです。
ど、どうせくたばるなら、私めの知らないところで、野垂れ死んでください」
「……お前こそ、あのお姫様を送り届けたら宣言通り死ねよ」
石をポケットにしまい、シフキは家に戻っていった。
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