二章 死中の覚悟
定めを最悪の形で塗り替えられてしまったレイラたち。
目的地の村にこのまま向かえば、反乱軍の追手部隊に見つかって殺されてしまう。
しかし村に行かなければ、レイラは傷の治療を受けられない。
次の村まではさらに2日かかる。
それまで手当と看病で凌ごうにも、レイラの身体が保たない。
「ご、ごめんなさっ、わ、私めが、もっと、早く……!」
「泣いている暇があったら何か考えろ!」
慌てるアズラエラをマリーが叱りつけ、半ば強引に冷静さを取り戻させる。
とりあえず泣き喚くのをやめて頭を回すことにしたアズラエラを見やり、マリーは周辺の地図を広げた。
近衛隊とアズラエラが顔をつき合わせて、どうにか策を練る。
「この村以外に立ち寄れる町や村はないのか?」
「ダメだ。次に近い町まで陸路で丸一日。
どちらにしろ殿下が保たない」
「今から全力で漕いで到着を早めるのはどうだ?」
「それで早まってもせいぜい数分だ。
ロクな治療も出来ぬだろう」
「治療する間我らが周囲を固めれば……」
「飽和攻撃を受けた場合耐えらぬでしょうな。
私が指揮官ならそうします」
「あ、あの、いっそお医者さんの方から来てもらうのは、どうですか?」
「それは私も考えたが、村唯一の医者を連れていくなど承知しないだろう。反発を受けている間に追いつかれる」
案が浮かんでは消え、出ては引っ込む。
一か八かで挑戦できなくもない献策はいくつかあったが、事は人命にかかわる。
しかもレイラの命となれば、安易な策を採用するわけにもいかなかった。
1時間、揺れる小舟の上で議論したが結論は出ない。
もはや、誰の口からも言葉が出てこなかった。
たった1人を除いては。
「……目的地を変えて」
「殿下!?」
「レイラ様!ジッとしてなきゃダメなのです!」
先ほどよりも顔色が悪くなり、目が虚ろになったレイラが口を開く。
すでに失血による衰弱が始まっていた。
「ひ、姫様。でも……」
「アズラエラ。アナタが占ったなら、村に行って私が死ぬのは、間違いないわ。……だったら、行かなければいい。簡単なこと、でしょう?」
弱々しく、しかし努めて朗らかにレイラは笑う。
無理をしているのは明らかだった。
「で、でも。私めには、ひとつ先しか見えてなくて、村で治療を受けなければ姫様がどうなるかは……」
「死なないかもしれない。……それで、十分だわ」
衰弱している人間のものとは思えない力強い瞳で、レイラはアズラエラを見つめる。
この場にいる誰よりも先に、誰よりも強く、レイラは覚悟していた。
「確実に死ぬわけじゃないなら、勝機はある。
死なないためなら、私は死にかけたって構わない。元々、健康無事で逃げきれるだなんて思ってないの」
上手く力が入らず震える手を伸ばし、アズラエラとローガンの手をとる。
「ローガン、アズラエラ。……みんなのこと、お願い」
そこまで言い終えると、レイラはその場で倒れ込む。
「姫様!!」
「殿下!!」
「レイラ様!」
助け起こしたレイラはすでに意識を手放していた。
脂汗をかきながら、荒い息でうなされている。
アズラエラは、倒れる寸前の言葉を思い出す。
(姫様……まさか、意識がもう長く続かないことが分かっていて……?)
まるで、自分が気絶する前に伝えるべき意志を伝えきるように、レイラはアズラエラとローガンに言葉を残した。
その事実が、焦りで曇っていたアズラエラの視界を晴らす。
そして見つける。最悪の事態の突破口を。
「……あ、あの!この地図のココに書いてある河沿いの森の名前って……」
「ドクダの森ですな」
「でしたら!その!なんとかなります!なんとかします!」
「このドクダの森がどうしたんだ?」
「この森には、魔女がいるんです!占いでも呪いでもない、医術専門の魔女が!」
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