二章 辻占い

 ロウジィに連れられて、追手部隊とロウジィは町の中心部である市場に来ていた。


「隊長、この少女はいったい……」

「新しい猟犬だ。先ほど拾った」


ロウジィを訝しげに見る部下の兵士たちに、隊長は端的に説明する。


「大丈夫でしょうか。この者も王女の息がかかっているやも……」

「その心配はない。見ろ、あの姿を」


 隊長はロウジィの格好を指す。


ボロ布一枚をまとい、小皿に先ほどの銀貨5枚を大切に抱え、目に包帯を巻いたロウジィの装いは、誰が見ても物乞いのそれだった。


「没落したとはいえ元王族が雇ったのなら、あんな見窄らしい格好をする必要はない。

偽装でアレほどやつれた体躯になることも不可能。

つまり、ヤツは安全な野良犬だ」

「なるほど、乞食をするほど飢えているなら間違いなく手付かず……」

「では、始めます。皆さんは少しお静かになさってください」


 ロウジィは深く息を吸って、止める。


自身から発せられる音を極力削ぎ落とし、市場の喧騒に耳を傾けた。



 辻占い。


それは道端に立ち、通行人の会話や発する音を天啓として捉え解釈する占い手法のことである。


国や地域によって夕方に行うものや橋のたもとで行うものもあり、その起源は古代に遡る。


そして、ロウジィの辻占いは人に限らない。


それこそ全ての音が天啓である。


井戸端の雑談から店員の呼び込み、行商人同士の会話や動物の鳴き声。


あらゆる音からロウジィは天啓を拾い集める。


(河……ケガ……村……方角は、東……)


そこまで音を拾うと、プハッ、と溜め込んだ息をはき出す。


肩で息をしながら、東の方角を指差した。


「東の方にある、河沿いの村に行くといいでしょう。

お医者さんのところに、アナタの目的の人が居ますよ」

「医者……そうか、ヤツは負傷している。その傷をまだ治療できていないのだ!

好機だぞ!直ちに出撃準備をしろ!

魔女、キサマも来い!場合によっては再び占いが必要になる!」

「は、はい!」


 追手部隊は新たな猟犬であるロウジィを連れて動き出す。


アズラエラが悪寒を感じていたのは、まさにこの瞬間であった。


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