二章 最悪の予感

 出立の時間になり、レイラたちは野営を片付けて河岸を離れることにした。


目的の村までおよそ半日。

日が暮れるまでに到着しなければ医者が門扉を閉めてしまう。


森を脱する前にアズラエラが観た、レイラが殺される日まであと1日。


その頃には村を出ていなければ逃げられない。


「今は応急手当のみで、止血は完璧とは言えません。

次の村でひとまず止血を完了させ、更に河を下った先の村で養生いたしましょう。

それまでは辛抱ください、殿下」

「えぇ、ありがとうローガン。みんな、行きましょう」


 再び小舟が河を下り始める。


止血のために立ち寄る村から、更に次の村まではおよそ2日。


レイラの体力を鑑みて、かなり綱渡りの強行軍である。


しかし、この計画ならギリギリで持ち堪える算段だった。


「レイラ様、顔色が悪いのです。お水をお飲みくださいなのです」

「ありがとう、ポピー。貰うわね……」


 治療は近衛たちも出来るが、看病については門外漢である。


そこは侍女のポピーに任せるしかない。


定期的に包帯を変え、まめに水分を補給する。


出血を伴う怪我に対して、最低限これだけは続けなければいけない。


 そういった意味では、河下りという移動手段は今の状況にうってつけだった。


レイラの看病にも、近衛たちの兵糧にも、アズラエラの占いにも河の水を充てられるのだ。


(さっきの占いで、この計画なら姫様が助かるのも確認済み。このまま行けば……)


 安堵しようとしたその時、アズラエラの背筋に悪寒が走る。


「な、何……?今の……」


悪寒の正体を探して辺りを見渡すが、何処にも異常はない。


そんなアズラエラの様子に気づいて、レイラは心配そうに声をかけた。


「アズラエラ?どうかしたの……?」

「い、いえ。その……エット、ちょっと、念のために……」


占いのために河の水をすくい上げて、鍋に水を張る。


宝石を投げ入れ、波紋を観察する。


「そんな……」

「アズラエラ?」

「アッ、いや、あの、ちが、これは、違うんです姫様。その、えっと……」

「どうした魔女、何かあるなら言え。

お前の占いは殿下のお命に直結しているのだ。

遠慮される方が困る」


マリーの荒い助け船が背中を押し、アズラエラは困惑しながら口を開いた。


「定めが、変わってます……このまま村に入ると、姫様は殺されます……」

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