定めない幕間譚1
レイラたちを乗せた小舟が河を下る。
近衛騎士たちが目を覚ましてからは、二本のオールを持ち回りで漕いでいた。
「こうして舟を漕いでると、『ラーナ河のお舟』を思い出すのです」
「あっ、えっと、それ、わ、私めも思ってました!」
「アズラエラさんも知ってるのですね!」
「ラーナ河に お舟が通る お舟が通る パッタンパタタ♪」
ポピーとアズラエラが口遊みながら舟を漕ぐ様子を、他の面々が驚いた表情で眺める。
「ポピー、アズラエラ、それは何の歌なの?」
「ラーナ河の歌なのです。みなさんは知らないのですか?」
「私は聴いたことも弾いたこともないぞ」
「二人とも歌えるということは、市井では有名な歌なのでしょうな」
「誰の歌だ?」
「知らん。異国の音楽家ではないか?」
「バカめ、異国の者がラーナ河の歌を書くものか」
「ハッハッハッ、然り然り」
レイラを筆頭に王族貴族にあたる彼らには、庶民の歌に馴染みがない。
平民の家から奉公に来ていたポピーと、森に引きこもる前は村で暮らしていたアズラエラだけが知っているという、普段とは反対の現象が起きていた。
「初めてポピーの方がモノを知っていたのです!仕方ないからここはポピーがみなさんに教えてあげるのです!」
「ムムッ、仕方ないとは何事か。コヤツめ〜」
少し調子に乗ったポピーの頭を、ウィルとイーサンがわしゃわしゃと撫でまわす。
「まぁ待て。ポピー、オールを貸してみろ。近衛隊にも1つ、うってつけの歌があってだな。
ご照覧あれ 我らが王よ 忠義の剣を 高く上げ♪」
「我が隊の軍歌ではないか!」
「近衛軍歌に乗せて舟を漕ぐヤツがどこにいる!ハッハッハッ!」
アラン渾身のギャグに、他の近衛たちもポピーも、普段は声をあまり出さないアズラエラすら大笑いした。
レイラもそれを見て手を叩いて喜ぶ。
「私も私も!そうね、何がいいかしら」
「殿下は御安静になさい」
重傷であることを忘れオールを借りようとしたレイラだったが、ローガンに釘を刺され不貞腐れた。
「ハハハッ、殿下はまず傷を治しませんと」
「はいはい。大人しくいたしますよーだ」
河の流れの如く緩やかな時間。
この僅かなひと時が、レイラの生涯で最も楽しい舟旅となった。
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