一章 探査の魔女、反撃
「……隊長の坊や、ちょっとここで休憩しないかねぇ?」
移動を始めてしばらく。
突如、コーディアが足を止める。
反射的に拒否しようとしたが、慣れない森の中で繰り返される強行軍に兵士たちが疲れているのを見て渋々聞き入れた。
「……10分後に再度出発する」
「クスクス、10分ありゃあ十分だ。……さて」
行軍が止まった頃合いで、コーディアは地図を広げてペンデュラムを取り出す。
しかし、すぐには占いを始めずにジッと座り込んだ。
「コーディア殿……?」
「ちょいと待ちなねぇ。そろそろ罠にかかる頃だから」
待つこと1分、コーディアはペンデュラムをつまみ、地図の上にかざす。
そしてニヤリと歯を見せて笑いながらペンデュラムを巻き取った。
「隊長の坊や、やっぱり今居るこの辺りで待ち伏せよう。これ以上歩くのは老体にはキツくてねぇ」
「何だと?いい加減に……」
「今度は絶対、網にかかる。良かったねぇ、これで終わりじゃよ。クスクス、クスクスクス……」
今までにないほど気味の悪い笑顔で、コーディアは断言する。
その笑顔に気圧されて、隊長はそれ以上噛みつくことができなかった。
* * *
一方のレイラたちは、抜け道を引き返してアズラエラの小屋から追手と反対方向へと進む。
洞窟で置き去りにした時間的優位があるとはいえ、負傷したレイラと体力のないアズラエラを連れての移動はどうしても時間がかかる。
更に、定期的に占いのために足を止めなければいけないことも移動速度を遅らせていた。
気が逸る中、努めて冷静に行動する。
一手間違えればレイラは死ぬ。
それが分かっているからこそ、焦りに身を委ねる者は誰ひとり居なかった。
「こ、この先の川で進路を変更します。
そうすればまた時間は稼げるでしょう。
あとは下流の小船にたどり着けば逃げきれます!……たぶん」
ようやく目標の川が見えてくる。
川にかかる橋を越えてしまうと待ち伏せから逃げる際に橋の上で狙われやすくなるので、渡らずに川に沿って曲がれば再び出し抜ける。
出し抜ける……はずだった。
川に近づくにつれて、アズラエラの額に冷や汗がにじむ。
何かが、おかしい。
今まで感じたことのない強烈な悪寒に、アズラエラは思わず叫んだ。
「待ってください!何かおかしい!」
驚いて足を止めた近衛騎士たちの足もとに、矢が飛び込んでくる。
「何っ!追手だと!?」
マリーがすかさず抜剣してレイラを目掛けて飛んできた矢を叩き落とす。
咄嗟に対処したものの、完全に不意を突かれたレイラたちは次の手を打ち損ねた。
「レイラ姫はそこだ!殺せ!」
「覚悟!」
草陰から現れた伏兵がレイラたちを取り囲もうとする。
近衛たちはローガンのハンドサインを基に、
来た道を塞ごうとする伏兵に相手を絞ると、
即座に斬り捨ててレイラとアズラエラ、ポピーたち非戦闘員の手を引いて駆け出した。
「逃すな!別働隊に伝令を送れ!」
隊長の指示で反乱軍の追手部隊が包囲網を敷き直す。
即死こそ回避したが、レイラたちは完全に袋の鼠だった。
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