一章 占い師の弱点
「今際の魔女!何が起きている!?」
野良猫を扱うようにアズラエラの首根っこを掴みながら、マリーは足を止めずに問いただす。
本来なら息も絶えだえに答える余裕すらない速度で走っているが、マリーに引っ張ってもらえているせいか呻き声を出す程度の余力がアズラエラには残っていた。
「ハァ、ハァ、あの、わ、分かりません!
で、でも、私めが、占った後に、定めが書き換え、られた、みたいで……」
「途切れ途切れな上に声が小さくて聞こえん!」
「マリー、魔女殿は訓練を受けていません。
走りながら話すのは困難でしょうな」
ローガンに嗜められ、マリーは渋々質問責めをやめる。
嗜めこそしたが、ローガンも同じ疑問を抱いていた。
それはもちろんレイラや他の近衛も、何よりアズラエラ本人も同じ疑問につまずく。
死の定めだけは必中のアズラエラが、どうして出し抜かれたのか。
* * *
そして一方の追手側、同じ問いはコーディアにも向けられていた。
「コーディア殿、どうして今回は姫が姿を現したのでありますか?」
「お姫様についている魔女と同じことをしてあげたからさね」
「同じ、こと……?」
「相手が占った後に定めを変えること。それをこちらもやってあげたのさ」
占い師が読めるのは占った時点での定め。
その後行動を変えて定めを書き換えれば再び占うまでは書き換えに気づかない。
事実、今までアズラエラはそうやってコーディアを出し抜いてきた。
「これまでに3回上手くいったんだ。そりゃ4回目も上手くいくと思うのが人情さねぇ。
それが妾の仕掛けた罠とも知らずにねぇ。
4回目の占い、お前さまは何か違和感を覚えなかったかい?」
「そういえば、いつもより時間がかかっておられました」
「あの時妾が占ったのはお姫様だけじゃない。
相手の魔女も占ったのさ」
「相手の……ああっ!」
「おや、気づいたのかい?お利口、お利口。
そう、妾や相手の魔女に限らず、占いを生業とする全ての魔女の弱点。
占うときは集中しなきゃいけないんだよ」
占いは神の定めを読み取る方術。
それは簡単なことではなく、どれほど成熟した魔女でも集中して読み取らなければいけない。
少なくともそれは占いの種類に限らず、移動しながら出来るシロモノではない。
つまり、魔女が占いをするときは必ず立ち止まるのだ。
探し物が"いつ""何処に"あるのかを読み取ることに長けたコーディアなら、
魔女が何時に何処で立ち止まるか、
すなわち占いを行うのかを読むことができる。
コーディアはアズラエラがどのタイミングで占いをして、その時点で何処にいるのかを把握していた。
「あとは相手の魔女が占い終わった頃合いで待ち伏せ地点を変更してやれば、定めが書き換わったことに気づかないまま飛び込んでくるって寸法さね」
コーディアの作戦通り、レイラたちは待ち伏せ地点を見誤って包囲された。
仕留めることは出来なかったが、今の彼女たちに立ち止まって占う余裕はない。
「詰みだよ、小娘。次の占いでお姫様の死に場所が分かる」
地図を広げてペンデュラムを垂らす。
読み取るのはわずか30分後のレイラの居場所。
コーディアの占いにかかる時間と、
レイラたちの移動時間、
それに追手たちが追いつくために必要な時間。
それらを踏まえた30分後の指定。
「……コーディア殿?」
意気揚々と占いを始めたコーディアの表情が徐々に歪んでいく。
嫌な未来を予見したように。
「……森の外だ。お姫様は30分後、包囲網を抜け出してまんまと逃げおおせているよ」
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