一章 魔女には魔女を
小屋の床板から地下に潜り、レイラたちはそのまま地下道を進んでいた。
レイラは侍女のポピーに支えてもらいながら、先導するアランたちに必死について行く。
「魔女殿、質問をしてもよろしいですかな?」
一番後ろを請け負うローガンが、ついて行くのがやっとのアズラエラに問いを投げる。
「は、はひ。なんでしょう……ぜぇ、ぜぇ……」
「魔女殿は具体的に、いくつ先の死まで観えておられるのですか?」
「はぁ、はぁ、ひ、ひとつ先しか、見えません。書き換えるまでは、神の定めは、一本道、なので……」
息も絶えだえに、アズラエラは懐から砂時計を取り出す。
その時ちょうど砂が落ちきって、レイラたちは予め話し合った通り足を止めた。
騎士たちは周囲を警戒し、その間にアズラエラはひょうたんの水を持ってきた鍋に汲み、その上にいくつかの宝石を投げ入れる。
宝石は飛沫をあげ、波紋を生み、あるときは水面に浮き、またあるときは水底に横たえる。
その模様ひとつひとつを、アズラエラは丹念に観察する。
「……やっぱり、対応してきましたね。コーディア」
「どういうことだ?」
「死の定めを回避するということは、未来に新しい居場所が刻まれるということです。コーディアほどの魔女ならそれに気づいて再び占って来ます」
未来予知が出来るのはアチラも同じ。
レイラたちが未来を変えれば、コーディアたちもそれに対応して未来を変えてくるのだ。
「そこでこちらも定期的に占い直してます。
現にいま、新しい死が観えました。この地下道を抜けると洞窟があるのですが、その出口に待ち伏せられて全滅します」
「それじゃあ、このまま真っ直ぐ洞窟に向かうわけにはいかないわね」
宝石を水中から回収し、鍋の水をみんなで分けて飲み干す。
本来は占いの後水は捨てるのだが、いつ飲み水が確保できるとも分からない現状では貴重な水だ。無駄には出来ない。
「さて、ひと息ついたところで、さっそく引き返しますかな?」
「アッ、いいえ。この対応の速さを見るに、
コーディアは占わずとも定めの書き換えを感知できる可能性があります。
洞窟内まで行ってから引き返しましょう。
そうすれば、コーディアが再び占い直すまで追手を足止めできると思います……たぶん」
* * *
一方の反乱軍は、コーディアの占いをもとに先回りした洞窟出口で待ち伏せをしていた。
「…………くしゅん。また定めが変わったねぇ」
「コーディア殿、本当にお具合は大丈夫でありますか?」
「お前さまは本当に優しいねぇ。しかしこう何度も、どうやって妾の占いを出し抜いているのやら。おかげでまた占い直す……羽目に……」
苦笑いで愚痴をこぼしていたコーディアが、何かに気づいたように瞳孔を開く。
自分がどう出し抜かれていたのか、その答えに辿り着いたコーディアは、思わず笑ってしまった。
「クスクス、クスクスクス……なるほどのぉ。それをやられちゃ妾のような魔女はお手上げじゃ。普通なら、のぉ……」
「こ、コーディア殿……?」
心配そうに顔を覗き込む護衛兵士のアゴを手にとり、不適な笑みで顔を寄せる。
「喜べお前さまよ。敵の腹は読めた。ここからは妾たちの手番じゃよ」
地図を広げてペンデュラムを垂らす。
ニタニタと笑いながら、じっくりと森の端から端までをペンデュラムでなぞる。
(今回はこれまで以上に慎重に占われているな……もう10分は経っている……)
占い始めたコーディアを眺めて10分あまり。
クスクスと笑いながらペンデュラムを指に巻き取り、コーディアは立ち上がった。
「隊長の坊や、どうやらこちらには来ないようじゃ」
「なっ……き、貴様!話が違うではないか!」
「すまんのぉ、あちらも中々手強い。妾たちに気づいて進路を変えおった」
「ふん!ならば反対側に布陣した別働隊に引っかかっているはずだ!こちらから洞窟に入り挟撃すれば……」
「それがあちらの狙いじゃよ」
「ね、狙い……?」
コーディアはそこらに落ちている木の枝で地面に簡易図を描きながら、レイラたちの行動を言い当てる。
「洞窟内の道は一本道じゃが入り組んでおる。
こちらが別働隊のもとに辿り着くまで短くない時間がかかるじゃろう。
その間に距離を稼いで安全に森を抜ける気じゃ」
「だから、洞窟内は一本道だろう!どこにも逃げ場が……」
「逃げ場のない状態で出し抜かれたのはこれが初めてかのう?」
コーディアのひと言で、隊長の脳裏に小屋での一件が過ぎる。
あの時も完全な包囲網をいつの間にか突破された。
「……まさか!」
「洞窟と小屋を繋ぐ抜け道があるんじゃろうな」
「な、ならばその抜け道を探して……」
「無駄じゃ、簡単に見つかるわけもない。それよりホレ、ここが1時間後の姫の居場所じゃ。
今から先回りすれば追いつくじゃろう」
「クッ……移動するぞ!」
隊列を組み直す反乱軍を眺めながら、コーディアは不気味に独りごつ。
「定めの書き換えなんぞに手を出した悪童にゃ、灸を据えてやらんとねぇ」
反乱軍の追手部隊は、次の待ち伏せ地点へと移動を始めた。
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