一章 占い合戦、開幕

 時を同じくして、アズラエラの小屋の外には反乱軍の追手が布陣していた。


「……くしゅん」

「冷えますか?コーディア殿」


コーディアの護衛を任された兵士が、民族衣装のような奇抜な格好の少女の肩にマントをかける。


その少女こそ、探査の魔女コーディアだった。


「ありがとうねぇ、でも具合が悪いわけじゃないんじゃよ。

定めが変わっちまったようだねぇ。もうここには居ないよ」

「た、隊長!コーディア殿が、既に姫はここに居ないと仰られています!」

「そんなわけがあるか!こうして包囲したのだ、何処に逃げ道がある?」


コーディアの護衛が意見をする暇もなく、伝令の兵士が割って入った。


「申し上げます!全部隊、突入準備が完了しました!」

「よし……!聞け!この小屋にはあの忌まわしき王家の生き残りが息を潜めている!

王家の血を絶やさぬ限り、奴らは虫のようにしぶとく生き残り、国民の富を奪い続けるだろう!

神の定めの下に、正義は我らにある!……突入!」


追手の隊長が高く上げた手を振り下ろし、それを合図に扉や窓を破って部下たちが押し入っていく。


しかし、何処を探しても姫どころか護衛も、果てはその場にいた痕跡すら見つからない。


「隊長!誰も居ません!」

「何ぃ!?おい、魔女!どういうことだ!」


声を荒げる隊長をよそに、コーディアは地図を広げてペンデュラムを取り出す。


親指と人差し指でチェーンをつまむようにして垂らし、少し浮かせたまま地図の上をなぞっていく。


「おい!聞いているのか!」

「元気がいいのは結構じゃが、少しは落ち着きなさい坊や」


 激昂する隊長の怒号をどこ吹く風のように、コーディアの意識はペンデュラムの先端に集中する。


三分ほど経った頃、コーディアはペンデュラムを指で巻き取り地図のある地点をさし示した。


「1時間後にお姫様はここに居るねぇ。向こうのほうが遅いから、今から行けば先回りできるよ」

「これは……岩場にある洞窟の出口か。今度こそ本当だろうな?」

「今のところは、ねぇ」

「……クソッ。おい!移動するぞ!部隊を分けて洞窟の出入り口を挟む!」


追手の部隊が行軍準備を整える間、コーディアの護衛が声をかけた。


「コーディア殿、今のところは、というのは一体……」

「お姫様にも魔女がついておるようじゃ。

方法は分からんが、何らかの魔法で妾の占いを出し抜いておる」

「そんな……このままでは逃げられてしまうということでありますか?」

「さすがにそれは妾のプライドが許さんよ。

隊長の坊やはうるさくて好かんのじゃが、

お前さまは優しくて好きだから助けてあげたいし、ねぇ」

「すっ!?こ、光栄です!」


顔を真っ赤にして困惑する護衛を横目にクスクスと笑いながら、地脈の続く先に居るであろう姫側の魔女を見やる。


(この妾と魔法合戦をしようとは、若い魔女はかわいいねぇ。

千年早いことを教えてあげるよ、小娘)

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