一章 それが占いというもの

「探査の、魔女……?」

「魔術師の中では有名な占い専門の魔女です。

同業者……のようなものですから私めもよく知ってます。

探し物においてアイツ以上の魔女は、少なくともこの大陸には居ないかと」

「そのコーディアという魔女の占いによって居場所がバレているということか……」

「ねぇ、アズラエラ。コーディアの占いはどのくらい当たるの?」

「必中です」

「な、なんだと!?」


普段は常に狼狽しているアズラエラが、コレについては当然のように頷く。


「もとより、占いを生業にしている魔女ならば外すことはあり得ません。神の定めを読んでおいて外す方が難しいです」

「神の定めを、読む?そんなことができるの?」

「それが占いですから」



 世界のあらゆる物事は、神によって既に定まっている。


天気や災害、人の生き死に、果ては国の存亡に至るまで全てが【神の定め】の筋書きに沿って進行される、と、この世界では信じられている。


そして占いとは、その神の定めを読み取る方術である。


読み取り方そのものは難解で、正しく占うには途方もない研鑽を要するが、一度体得してしまえば正確に未来を予知できるようになる。


「しかし、神の定めだったのであれば、何故先程の待ち伏せは回避出来たのですかな?

コーディアとやらに場所を占われ、魔女殿にも死を占われた殿下は、今こうして生きておられます」


 この世界において神の定めとは運命そのもの。


神が世界を創った時点で何もかも決められているというのが常識だ。


故にこの世界の人々は良いことがあれば神に感謝し、不幸な境遇にあれば神に祈る。


どうかこの先に救いがありますように、と。


そんな常識を持つ彼らにとって、運命が変わることなどあり得ないことだ。


「それは、えっと、占った後に状況を変えたから、ですハイ……」

「状況?」


近衛たちの頭に疑問符が浮かぶ。


説明不足を悟ったアズラエラは慌てて言葉を付け足した。


「アッ、エトッあの、占いで分かるのは占った時点での定めですので、意図的に行動を変えれば当然結果が変わるというか……」



 要は後出しジャンケンである。


相手がグー、自分がチョキを出すつもりなら神の定めでは負ける結果になる。


しかし占いで未来が分かれば、自分が出そうとしている"チョキ"という《行動》と、占いで見えた"負け"という《結果》から逆算して、

パーに手を変えることで勝つ未来に変えられるのだ。


「理屈は分かったが、先が見えたからといって神の定めに逆らえるものなのか?」

「逆らっているわけではありません。ただもうひとつの定めに書き換えることが出来るだけです」

「もうひとつ……って、神の定めは幾つもあるということ?」

「そのようです。私めも道半ば故、全てを知るわけではありませんが。

私めが占いをもとに死の定めを変えれば、その先の定めもいつの間にやら変わっているのです。

ですので、先ほどスープを作る傍ら占っておきました。次の死も観えております」


ひょうたん5つと鍋を抱え、アズラエラは床板を引き剥がす。


「まずはココを回避しましょう。みなさん地下へどうぞ」

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