第20話

 春になって、静は花を集めることが多くなった。

 そして、必然的に安全地帯から出ていくことも多くなった。

「なぁ、静、その花は急ぎなの?」

 優樹は手の平より大きなピンクの花を見て尋ねた。

「うん。そうだよ」

 はさみで優しく枝を切り、バケツに入れていく。

 時々襲ってくるコ゚ーストは、優樹が退治しているが、数が多い時は、静も戦っている。

 バケツがいっぱいになると、バスにのって帰る。

 花を葵に渡すと、帰っていいと言われたので、素直に帰ることにした。

「ゆうちゃんお仕事終わった」

「そうなのか?」

 思わず葵を見た。

「そうだよ。この花はもう買い手がいるし、外にいく方が大変だし、静君、そろそろ眠いだろう?」

「少し眠いけど、前ほどじゃないです」

「店が忙しくなるのは、5月くらいだから、今のうちにゆっくりするといいよ」

「じゃあ、そうさせてもらいます」


 店を出て、優樹を見た。

 背が高くなった。前は、もう少し顔が近かった気がする。

「ゆうちゃん、今日、なにか予定ある?」

「ないよ」

 あったとしても、静に誘われたら、他の予定は断わっている。

「…今日、泊まり来れる?」

「いいよ」

 明日は休みだし。

「メシどうする?」

「おでん買っていく?」

 パックで売っているから、それを買っていくことになった。

 

「俺さ、4月になったらこっちに住むことにした」

 おでんを食べる。

「そうなの?」

「まだ、どこに住むか決めてなくてさ」

「…ぼくと住む?」

「いいのか?」

「向こうでも、ほとんど一緒に暮らしてたじゃない」

「そうなんだけどさ…」

「部屋も余ってるし」

「…だったら、ここで暮らすよ」

 優樹が柔らかく微笑んだ。

 その笑顔に、なんだか、ドキドキした。

「何か、最近ゆうちゃんが、かっこいいから、ドキドキする」

「俺も、静といるとドキドキするよ」

 優樹の琥珀みたいな瞳が、妙に綺麗に見えた。


 夜中、静は目が覚めた。起きると、優樹も目が覚めたみたいだ。

「ごめん、起こしちゃった?」

「いや、気にしなくていい。…眠れない?」

「何か、目が覚めたみたい」

「なぁ、静」

「なに?」

「静は、俺が好きじゃん?」

「うん…」

「俺も、静が好きじゃん?」

「うん…」

「付き合ってくれないかな」

「付き合うって、どうしたらいいの?」

 優樹は、静の黒髪に触れた。

「そこは、ゆっくり考えよう。とりあえず、いやじゃない?」

「うん。ぼく、ゆうちゃんが好きだし」

「ありがとう」

 優樹は、静の額にキスをした。 

 二人は、なんだかおかしくて笑う。

「静、これからよろしく」

「うん。よろしくね」


 六等星の休憩時間に、静が言った。

「4月になったら、ゆうちゃんと二人で、暮らすことになりました」

「そうなの?」

「はい。ゆうちゃんはこっちで働くそうです」

「だろうね」

 裏側に来れる人間が、表側で働くことは、ほとんどない。

「それから、ゆうちゃんと付き合うことになりました」

 二人の手が、ピタリと止まった。

「そうなのかい?」

「はい」

「静君がいいなら、いいと思うわ」

「でも、ずっと一緒だから、あんまり変わらないです」

「そういうものなの?」

「だって、十年くらい一緒です」

「そんなに一緒なんだ…」

「気付いたら一緒にいて、大学も、同じ所に行く予定だったし」

 笑いながら話す。

「人生って、色々ですね」   

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