第12話

 夕食後、風呂からでてなんとなく外を見た優樹は呟くように言った。

「本当に、結界がある」

「なんか、綺麗だよね」

 ガラスみたいな四角い箱がいくつもあって、月明かりに照らされて、光っている。

 そう言いながら、静はカーテンを閉めた。

「閉めないと、やっぱり気になるか?」

「うん。…なんか張り付いてたら、やじゃない?」

 例えば、予想もしないものとか。

「…そうだな、それはちょっと」

 そんな話しをしたのに、静は風呂にいってしまった。

 一人になって、テレビをつけて、なんで映るんだろうとか、思いつつ、冷凍庫からアイスを出す。

 夏に食べるアイスもおいしいけど、冬に食べるアイスはもっとおいしい気がしている。


 来週の月曜日に、風魚の群れが来るでしょう。


 テレビの気象予報士が、変なことを言った。ふうぎょというくらいだから、魚だろう。


 富士山の山頂で、春を告げる風が生まれ、次々と風魚が生まれています。

 今年もたくさんの風魚が渡りそうですね。

 はい。雨の夜にしか渡らないのが残念なくらい、美しい色をしていて、渡りの夜に布を外に張っておくと、このように、美しい色がつくんですよ。

 そう言って、布を広げた。

 淡い色の布は、絶妙な色合いで、確かに綺麗だ。

 わぁ、綺麗!この色は風魚の色なんですか?

 そうです。布に風魚が入って、色が移るそうですよ。


 入った魚は、どうなるのさ。

 優樹は今、自分が変な顔をしている自覚があった。

「…ゆうちゃんどうしたの?」

「今、テレビで風魚が月曜日に来るって」

「ぼく、風の布作るよ」

「風の布?」

「そう、山から来る風に乗って、風魚が海に渡るから、大黒屋さんの屋上を使わせてもらうんだ」

 にこにこしている。

「作れたら、見せてもらっていいか?」

「いいよ。一枚いる?」

「見るだけでいい。静、ちょっと来い」

「何?」

「ちゃんと髪乾かせよ」

「大丈夫だよ」

 そういいながら、ちゃんと優樹の横にいく。優樹は静の頭にタオルをのせて、髪を拭いた。

「あのさ…」

「うん」

「かってに、助けちゃったけど、怒ってない?」

 優樹は静を見た。うつむいてるし、タオルで顔は見えない。

「怒ってないよ。助けてもらって、ありがたいと思ってる」

「本当に?」

「本当だよ。俺、もう無理はしない。だから、静も危ないことするなよ」

「うん…」

 静がタオルで顔を隠した。

 小さい頃から、静は泣くと顔を見せない。

 抱きしめて、背中をポンポン叩く。

「お互い、死ななくて良かったよな」

「…うん」

 なんだか自分まで泣けてきて、二人でしばらく泣いた。

 

「ゆうちゃん泣いてた?」

「少し…」

「ぼくいっぱい泣いちゃった」

「知ってる」

 静が抱きついてくる。

「あったかい…」

「当たり前だろ…」

額に軽くキスをする。

「…だってさ、あの時のゆうちゃん、土気色を通り越して白かったから…」

「それは、お互い様だろ…」

「そうだねぇ…」

 ほとんど同時に笑いだす。

「あー、もう寝ようか」

「そうだな」

 テレビを消して、部屋に布団を敷く。

「なんかこういうの久しぶりだね」

「昔はよく、こうしてたよな」

「凪と三人で、遊んだよね」

 静かな口調で言う。

「ぼくさ、凪に凄い怒られた」

「俺も、怒られた。死にかけるとか、馬鹿じゃないのかって、怒鳴ったりしないから、怖いよな」

 凪は怒っても怒鳴ったりしない。ただ、静かに説教してくるのだ。

「あんなに怒ってるの久しぶりに見たから、びっくりしちゃった」

 クスクス笑う静に、優樹が尋ねた。

「力を俺に渡して、大変じゃなかったか?」

「全然。だってぼく、こっちに来たばかりで、自分の力を自覚してなかったから」

 ただ少し、自分の一部がなくなって、穴があいた気がしているだけで、それも少しずつ、なくなっている。

「ゆうちゃんこそ、大変じゃないの?力の質が変わったのだから」

「そんなのどうってことない」

 なんでもないように言うけれど、大変だったろうなと思う。今までと力の使い方が変わるのだから。

「そっか、もう慣れちゃった?」

「もう少しって、感じだ」

「大変だねぇ…」

「誰もが通る道だからな」

「そうなの?」

 不思議そうだ。小さい頃から、不思議なものを目に映し、息を吸うように、自分の力と折り合いをつけられる者は稀だ。

「そうだよ。静みたいに、すんなりとこっちに慣れるのは、珍しいんだ」

「へぇ、知らなかった」

 静の声が、眠そうだ。

「もう、寝るぞ…」

「うん…」

 おやすみを言うと、静がくっついてきた。  



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