第13話
「倉田さん、今日はよろしくお願いします」
月曜日、静は大黒屋に来ていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人で屋上に行って、布を八枚綺麗に張る。じょうろと柔らかいブラシ、レインコートを用意した。
「…静君、そのレインコートは?」
可愛らしいかえるのレインコートは、物は良さそうだ、でも、どうなんだろう?
「これですか?セフィロトツリーの人達から、頂きました」
笑顔で言われ、倉田は何も言えなかった。
「あの…今日はここを使わせてもらって、いいんですか?」
「いいですよ。ここは、私がこっちに来たら使っている場所なので」
「倉田さんは、こっちで暮らしているのですか?」
「ほとんどこちらで生活してます。たまに、あちらに帰りますから、表側にも家があります」
「こちらで働いている人は、お家を2つ持っているんですね」」
「自然とそうなるんですよね」
話しながら、2階の食品売り場で、お弁当とお茶とおやつを買って戻ると雨が降り始めていた。
「布はあのままでいいのですか?」
「あのままで大丈夫ですよ。降る前から布を張って、少し乾かした方が、魚が入りやすいそうです」
イレーヌによると、風魚が渡り始めて二十分くらいしたらブラシで一度表面を綺麗にして、さらに1時間くらいしたら、ブラシで綺麗にするという。
「なら、今のうちに夕飯を済ませた方がいいですね」
夕飯を済ませたあと、二人はそれぞれ仕事をしていた。
「静君は、何をしているのですか?」
「石を綺麗にしてるんですけど、綺麗ならなくて」
「見せてもらえますか?」
静は石を倉田の手に乗せた。石は消しゴムくらいの大きさで、色はスモーキークォーツより少し黒っぽい。
よく見ると、紫色の光が走ってくる。
「…雷光石ですね」
「雷は上手く入ってくれたけど、焦げが取れなくて」
「磨きにだしますか?」
「専門の方がいるんですか?」
びっくりしているのが、なんだかおかしくて笑ってしまう。
「えぇ、いますよ。通常こういう石は磨きにだすものです。私の方でだしておきましょうか?」
「いいんですか?」
「それくらいいいですよ。いくつありますか?」
静はリュックから、黒い小さめの袋をだし、石を見せた。
「代金はいくらくらいですか?」
「2つ譲ってくだされば、こちらで出しておきます」
「足りますか?」
「これくらいしっかりした石なら、大丈夫ですよ」
「なら、お願いします」
「任されました。完成したら葵に連絡しますね」
「はい」
外を見ると、風魚が来ているのが見えた。
「風魚がきましたよ」
「本当だ。凄い綺麗」
静はメモ帳を出して、書き込んでいる。
「メモしてるんですか?」
「忘れないように、書いておかないと…」
真剣に書いている。
倉田は、なんだかワクワクしていた。こっちに来た頃は、毎日が面白かった。
久しぶりに、あの頃の気持ちを思い出していた。
二十分後、レインコートを着て、ブラシを手に外に出る。ライトを当てると、布に魚が入っているのがわかった。
ブラシで布を撫でると、魚が消えて色だけがのこった。すべての布を綺麗にして戻る。
「凄いですよね。ブラシでこすると、魚だけが消えるなんて」
メモを取りながら静が呟くように言う。レインコートを脱いで壁に掛ける。
「本当に始めて見ました。最近は、干しておくだけで、ここまでしないんですよ」
倉田の話しを聞いて、静はあぁ、という顔をした。
「イレーヌさんが、最近の子は楽ばかりしようとして、困ると言ってました」
「この方法なら、確かに手間がかかりそうですね」
「次は1時間後、その後は朝までそのままです」
リュックから、静がペットボトルの水を出した。
「その水は?」
「神社で買って来ました。朝になったら、この水で布を綺麗にするんです。
風魚は、春を告げる神様の使いだから、神社かお寺の水をあげると、風を抱いたまま色になって、布に定着するそうです」
静は倉田にそれ以外にも、結晶花や光樹の枝の切り方、保存の仕方、川の方でちょっと変わった女の子にあった話しをした。
イレーヌも葵も弟子なんていらないと言っていたのにと、苦笑する。
静は素直だから、教えるのが楽しくなったのかもしれない。
時間になると静と外に行った。
結局、静は朝までに何度か外に行き、布がどのような変化をしているのか見に行った。
朝、倉田が起きると、静はすでに起きていて、布にじょうろで水を掛けてブラシで布を綺麗にしていた。
「すまない。起きれなかった」
「おはようございます。こっちは大丈夫なので、気にしないでください」
もう、終わりますからと笑う。
「見てください。綺麗ですよね」
外に出て布を見ると、八枚すべてが違う色になっていた。
「見事ですね…」
静は、風の布を2枚置いて帰った。
手伝ってくれたお礼らしい。手に取ると、かすかに風を感じた。
店に戻って、葵と六花に風の布を渡すと、その足で、静はセフィロトツリーに行き、イレーヌに風の布を渡し、笑顔でお礼を言って、帰っていった。
「ふふっ、見て風の布よ」
セフィロトツリーでは、イレーヌは少女のようにはしゃいでいた。
「凄いですね。軽くて綺麗なのに、ちゃんと風がある。今までのは偽物ですよ」
「偽物というより、アレよカレン、手抜き」
それを聞いたセフィロトツリーの人々は、笑った。
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