第33話 俺の性癖を歪ませた彼女からは逃げられない



「これが? え、ゲーム会社が出しているやつじゃなくてですか?」

「そうなの。というより、むしろこっちの方が話題になってるみたいで」



 まだ発売前の『聖樹と呪術のリントネア』だが、YUNAを起用しているということもあり、優菜さんのコスプレ広告が出回るとそこそこだが話題になったらしい。

 らしい、というのは俺も詳しくは知らないから。

 いや、正確には耳に入らないようにしているが正しいか。

 優菜さんは元々こういうのに一切興味ないので見ておらず、俺も優菜さんが別の男性と一緒に映っているのが見たくなくて目に入らないようにしていた。



「SNSとか掲示板とかでも大賑わい。特にゆうなちゃんの表情がこっちの方がいいとか、なんか色っぽいとか。とにかくすっごく好評なの」



 SNSや掲示板とかを見せてもらったが、健吾さんの言う通り確かに好評のようだ。

 主に優菜さんを褒める言葉ばかりなのだが、



「かなたちゃんについても評判いいのよ」



 俺のことに触れているモノもあった。

 見た目がかわいいとか、慣れてない感じもまたかわいいとか。

 そういう言葉が多い。


 そんなコメントを見ながら、優菜さんは嬉しそうだ。



「かわいいだって。確かに奏汰くん、かわいいもんね」

「かわいいは、なんか違う気がします……」



 かっこいいという言葉もあるにはあるが圧倒的に数は少なく、優菜さんを崇めるコメントとかわいいコメントに隠れて見えない。



「あっ、でもゲームを買おうとしてる人も褒めてくれてますね」



 ゲームの雰囲気と合っているというコメントもあった。

 これを見て、ゲームをプレイするのが楽しみになったとか。


 それに……。



「『どうしてこちらの写真を採用しなかったのですか?』って……」



 明らかにオーディションで採用された写真と比較してのコメントも散見された。



「そうなの。一部だけどこういうコメントもあって。もちろん、男性役の俳優のファンは向こうを推しているんだけど」

「他の人はこっち?」

「パッと見た感じではね。この声の中には純粋にゆうなちゃんファンのゲームはしない男性層もいるけど、それでもこっちの方が評判いいかなって」

「ふぅん。で、企業から何か言われたの?」



 優菜さんの疑問に、健吾さんは大きくため息をついて頷く。



「この写真は使わないでくれって。まあ、オーディションで落とした写真の方が採用した写真よりも評判がいいなんて、これを選定した企業の人たちのメンツも良くないし、受かった男性俳優の関係者もいい気にならないだろうから」

「まあ、そうよね」

「じゃあ、これはもうすぐ?」



 消えてしまうのか。

 少し残念だが、企業の意向なら仕方ない。


 だけど、



「それが実はね──」



 健吾さんは嬉しそうに手を叩いた。







 ♦









 聖樹と呪術のリントネアの発売日。

 インディーズゲームではあったがゲームサイトの予約ランキングでも名前が上がり、体験版の評判も上々だったそうだ。

 広告のお陰。

 ではないが、それでも少しは影響しているのだと思う。


 そして、



「奏汰くん奏汰くん、これ」



 俺のことを手招きする優菜さんのもう片方の手がパソコンを指差す。

 画面には『聖樹と呪術のリントネア』のタイトル名が載ったコスプレの一枚絵が。

 綺麗に映る優菜さん。

 そしてその隣には、



「わぁ……」



 執事服を着た、美女には不釣り合いなほど子供っぽい見た目の俺がいた。

 場違いな感じがあって自分で見て恥ずかしい気持ちになるが、優菜さんはその写真を嬉しそうに眺めていた。


 ──この写真もダウンロード特典として追加してほしい。


 健吾さんは企業から削除することを依頼されたとき、こう頼んだそうだ。

 ここまで世間の目に触れてしまったのに急に理由もなく消されたら、ファンは企業だけでなくゲーム自体にもネガティブな印象を持つ可能性があった。

 それはもちろん売上にも影響するだろう。

 そのことを話したら先方も承諾して、こうやって俺と優菜さんの写真もダウンロードできるようになった。



「パソコンの壁紙とスマホの待ち受け、これにしちゃった」



 嬉しそうに画面を見せてくる優菜さん。

 少し恥ずかしい気持ちもあったけど、こうして喜んでくれたのは嬉しかった。



「奏汰くんも待ち受けにした?」

「え、ああ、まあ」



 俺も企業さんから無償で特典を貰えたのでデータとしてはある。

 だが、ふと聞かれて曖昧な返事をしてしまった。



「ん、その反応……変えてないでしょ」

「いや、別に」

「ふぅん。奏汰くんはこの写真より、入学式のときに一緒に撮った写真の方がいいんだ」

「なっ!?」



 予想もしていなかった言葉に動揺を見せた。



「なんで、俺の待ち受け知ってるんですか……?」

「ふふ、お姉さんにはなんでもお見通しだから。例えば──奏汰くんが私の寝顔を隠し撮りして待ち受けにしようか悩んでいたこととか?」

「だからなんで!」



 あれは一瞬、ほんの数秒だけ悩んでいただけなのに。


 優菜さんは俺の反応を見て笑みを浮かべる。



「ああ、やっぱり隠し撮りしてたんだ。カマかけただけなのに」

「え、じゃあ?」

「うん、知らなかったよ。だけど知っちゃった、今」

「……」

「隠し撮りは良くないよ? 人によっては犯罪なんだからね?」



 何か言い訳を。

 そう思って思考を巡らせる俺を、優菜さんは優しく抱きしめる。



「私のだから許してあげるけど、そんな悪い子は一人暮らしなんてしたらダメだよね?」



 ──今回の一件で俺は成長した。


 男としても、大人としても。

 だけど自他共に認められるほど、優菜さんの隣に相応しい男になれたかはわからない。

 というより、きっとまだまだだと思う。

 それでもいつか、いつか優菜さんに相応しい男になってみせる。



「これからもずっと一緒に暮らそうね、奏汰くん?」

「は、はい」



 だって、この狂ってしまった性癖は、きっと一生治ることはないのだから……。










 ♦








この先に、奏汰くんがコスプレイヤー、そして俳優へと成長して優菜に相応しい男になるお話を考えていましたが、物語としてはここで一旦の完結とします。

奏汰くんの第一歩も書けましたしね。

それと連載からちょうど一ヶ月、なんとか無事に毎日投稿できて良かったです。

これも、ブックマークやいいね、あと評価などで応援してくださった方々のお陰だと思ってます。

お陰でランキングにも載り続けてモチベーションが保てました。

ありがとうございます。


今後についてですが、

一応、来週のどこかで新作を投稿できたらいいなと書き溜めているところです。

なので、もし良かったら作者フォローなどして待っていただけると幸いです。


では!

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俺の童貞を奪ったお姉さんから逃げたのに、なぜか同棲することになって毎晩イジられるようになった 柊咲 @ooka

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