第15話 激辛鍋をどうぞ


 放課後、芳人と江南を連れて近所の大型ショッピングモールに来た。

 理由としては優菜さんからの要望だからだ。ここで、優菜さんは江南と会ってくれるらしい。



「もう少ししたら生YUNAさんと会えるなんて、どうしよ、芳人」

「まあ、最初は挨拶して、それからサインを貰ってじゃないかな?」

「あー、緊張する!」



 フードコーナーで興奮気味に話す江南と違い、芳人は冷静に言葉を返す。


 そんな時だった。



「……おまたせ」



 スーツ姿の優菜さん。

 だがその表情は少し不機嫌そうだった。



「YUNAさん!」

「……」

「えっと、はじめまして! あたし、江南椎名って言います!」

「僕は柏葉芳人です」



 興奮気味に立ち上がる江南と、ゆっくり立ち上がり頭を下げる芳人。


 そんな二人を見て、



「はじめまして、私は三枝優菜です」



 と挨拶してから、優菜さんは腕を組みながら俺を見る。



「それで奏汰くん、メッセージで言っていた子って彼女?」

「え、はい、そうです」

「そう……」



 優菜さんは少し間を空けてから、笑顔を浮かべた。



「奏汰くん、少し彼女と二人にさせてもらっていい?」

「え、二人に……?」

「その方が彼女も話しやすいと思うし。あなたもそれでいい?」

「は、ははは、はい! YUNAさんの仰せのままに!」



 どうやら俺たちは邪魔のようだ。

 少し優菜さんの反応が気になったけど、俺と芳人は時間を潰すため、二階にあるゲームセンターへと向かった。



「どうしようか、とりあえず友達になった記念にプリクラでも撮るかい?」

「なんでそうなるんだよ。それより、二人にして良かったのか?」

「なんで?」

「いや、江南が暴走しないか心配かと思って」



 UFOキャッチャーを見ながら問いかけるが、芳人は「別に」と首を左右に振った。



「さすがに二人のときは自制すると思うよ」

「なるほど、心配ご無用ってことか」

「まあね。これでも小学校からの付き合いだから」

「小学校からか」



 俺と優菜さんと同じぐらいか。

 ふとそんなことを考えた。



「それで、君の方はどうなんだい?」

「どうって?」

「二人の関係さ。ここには僕と君しかいないしさ、せっかくだから教えてほしいな」

「何度も言っているが、お前が期待しているような関係ではないぞ」

「そうなの? 入学式のときに見た二人の感じだと恋人関係かと……だけど、好きなんだろ?」



 芳人は心からそう思っているのだろう。だから複雑な気持ちだ。



「芳人はさ、テレビとかに出てるアイドルとか女優と本気で結婚したいって思って好きになれるか?」

「それは……別世界の人だから、普通は思わないかな」

「それと同じだよ。俺にとって優菜さんは高嶺の花だ。テレビに映るアイドルや女優と同じで、手の届かない相手、それが優菜さんだ」

「ふぅん」



 何か言いたげな表情を浮かべる芳人。



「奏汰って随分とひねくれた性格をしているんだね」

「なに?」

「好きかどうかを聞いたのに肯定か否定かじゃなく、例えで返す。だからそう思ったんだよ」

「意味としては同じことなんだよ」

「どうかな。まあ、恋愛経験のない僕に何か言う資格はないし、YUNAさんが女優やアイドルと同じぐらいほど美人なのもわかる。だけど奏汰も十分かっこいいと思うよ?」

「そ、そうか?」



 薄々気付いていたけど、おそらく芳人は天然なのだろう。だからこの言葉も、嘘とかお世辞とかじゃなく、本当に思って言ってくれているんだろう。

 だから少し照れる。



「とはいえ、僕が体験したことないような知らないことで奏汰も悩んでいるみたいだから、これ以上は聞かないよ。色々と複雑そうだし。だけど友達として、乗れる相談はしてくれよ?」

「……お前、言ってて恥ずかしくないのか?」

「どうして?」

「いいや、まあ……」

「変な奏汰だね。それじゃあ、僕たちが友達になったお祝いにプリクラでも撮ろうか」

「なんでそうなるんだよ」

「いいじゃないか、こういう機会じゃないかぎり男二人でプリクラなんて撮ることもないし。あれだろ? 撮ったプリクラに『俺たちズッ友』とか書くんだろ?」

「……いや、書かないよ」



 そうなのか、と残念がる芳人に連れられ、プリクラ機へ。

















 ♦















 プリクラを撮って、芳人は楽しそうにペンで文字を書く。

 そんなことをしていると、優菜さんから呼び出しのメッセージが届いた。


 フードコートに戻ると、二人が隣同士に座りながら、饒舌に話す江南と相槌を打つ優菜さんの姿があった。

 優菜さんの表情は、さっき会ったときよりも優しい感じがした。



「あっ、おかえり!」



 江南が勢いよく芳人へと走り出す。



「優菜さんからサイン貰ったの! それに写真も一緒に撮ってもらったよ!」

「そう、それは良かったね」

「うんうん、でねでね」



 やっぱりどこか距離感がおかしい二人。

 これで付き合ってないなんてありえないと思ってしまうが、俺と優菜さんもこんな感じの幼馴染っぽい距離感だからおかしいなんて言えないな。


 そういえば江南、優菜さんのことYUNAさんって呼ばなくなったな。



「奏汰くん」

「優菜さん、今回は無理言ってすみません」

「いいのよ、別に。それよりいい友達を持ったね」



 え、と思ってしまった。

 なんで急にそんなこと言われたのかわからずにいると、



「それじゃあ、あたしたちはこれで失礼しますね!」

「ええ、椎名ちゃんまたね。柏葉くんも、今度はゆっくりご挨拶するわね」

「はい、また。奏汰も、また明日学校で」

「ああ、じゃあ」



 そう言って二人は帰っていった。

 もう少し四人で話すのかと思ったけど、まあ時間も時間だし仕方ないか。



「奏汰くん、このまま買い物していこっか」

「わかりました」



 買い物カゴを持つ俺の隣を歩く優菜さん。



「それにしてもびっくりしちゃった、急に私に紹介したい子がいるなんて」

「そうですよね、すみません。俺も江南の圧にやられちゃって」

「まあ、あんなに何度も好きって言ってくれるのは嬉しいけど、少し照れちゃうね。あっ、今日はお鍋にしよっか、まだ寒いから」

「いいですね」



 野菜コーナーから精肉コーナーへ。



「でも、本当に良かった。彼女と知り合えて」

「え?」



 お肉を選びながら、優菜さんはニコリと微笑む。



「奏汰くん、合コンとかに興味あるんだって?」

「……え、なんでそれ」

「優しい椎名ちゃんが教えてくれたの。もちろん、私の方から断っておいたから安心して。学業に身が入らないから、ね?」



 どうやら今日は激辛鍋らしい。カゴに入れているスープのパッケージが見るからに辛そうだ。

 そしてなぜか、まだ食べていないのに背中に汗が流れた。





ブックマークの登録、下の応援する♥や評価欄★から応援していただけると幸いです。

よろしくお願いします。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る