第7話 優菜さんの意外な一面


 エッチなオークから優菜さんを守るため?

 いや、普通に優菜さんの仕事現場を見てみたいと思い、スタジオへとやってきた。


 スタジオといってもここはどこにでもある普通のマンションの一室だ。

 1LDKの室内には撮影機材とかがそこら中に置かれていて、かなり狭く感じる。

 そしてスタッフさんなのか、俺と優菜さんを迎えてくれたのは二人だけだった。



「あら、ゆうなちゃん! 今日は来てくれてありがとうね」

「優菜さん、どーもー」

「ケンさん、麻耶、今日はよろしくね」



 二人の女性(?)は、ちょうどコーヒータイムだったのか、ソファーに座りながら手を振る。



「おや、もしかしてこの子が例の彼?」



 女性(?)が俺を見てにっこりと笑った。



「ええ、紹介するわね。彼は冴島奏汰くん。もう少しで高校一年生になるの」

「あらやだ、イケメンじゃないのもう!」



 女性(?)が立ち上がると、真っすぐ俺へと駆け寄ってくる。

 日焼けで作られたであろう褐色の肌に、細身ながら筋肉質な体。

 俺よりもずっと大きい、たぶん、190はあるんじゃないかと思うほどの高身長。

 話し方だけで女性かと錯覚しかけたが、こうして目の前に立たれると物凄く整ったイケメン男性だとわかる。

 染められた白髪も、肌の色と肉体美によって幻想的に感じた。


 そんな男性は、俺の体をじっくりと眺める。



「これでまだ高一なの? 凄いわ、ゆうなちゃん、よくこんな優良物件を見つけたわね!」

「もうケンさん、言い方……」

「あなた、今は170後半ってとこ?」

「え、ああ、はい」

「身長はまだ伸びるかしら。180になって、もう少し筋肉を付けたら……いや、筋肉はそこまで付けない感じの方が──」

「ケンさん、まず挨拶と自己紹介!」



 優菜さんの言葉で男性が我に帰る。



「あらごめんなさい。あたしは土部健吾どべけんご、カメラマンをやってるの。よろしくね、かなたちゃん」

「よ、よろしくお願いします……」



 優菜さんが言っていた筋肉質なカメラマンって、この人のことだったのか。全くオーク感はない。こんなイケメンのオークがいてたまるか。



「それと、彼女は古手川麻耶こてがわまや。このスタジオのアシスタント? みたいな感じ」

「どーも、給料泥棒兼アシスタントの麻耶です。よろしくー、奏汰くん」



 麻耶さんは椅子に座ったまま手をぶらんぶらんさせている。

 全体的に金色の髪に、ところどころ水色のメッシュをいれた巻き髪の髪型。化粧も少し濃く、見た目や雰囲気はギャルっぽい印象を受ける。



「こら、まやちゃん。給料はちゃんと払ってるんだから、給料泥棒との兼業は辞めてちょうだい」

「だいじょうぶだいじょうぶ、仕事もちゃんとしますから。お二人さん、飲み物はコーヒーでいいっすか?」

「麻耶、ありがとう」



 テーブルを挟んで置かれた二つのソファー。俺と優菜さんは隣に座る。

 テーブルの上には女性もののファッション雑誌と、化粧品が無造作に散らばっていた。

 それらを健吾さんが片付けながら言う。



「二人とも、汚くてごめんなさいね……」

「ふふ、いつものことだから平気よ」



 優菜さんはテーブルに置かれた一冊を手に取った。



「ねえ、今週の麻耶のオススメの雑誌はどれ?」

「自分のっすか? んー、どれっすかね。ケンさんは?」

「そうね、ゆうなちゃん向けなら……これかしらね」



 健吾さんから手渡された雑誌を何ページか捲り、優菜さんは頷く。



「持って帰ってもいい?」

「ええ、いいわよ。どうせあたしもまやちゃんも読み終わってるから」

「ありがと、麻耶もね」

「はーい。って、まあ、別にそこに置いてあるのほとんど経費っすからね。はい、コーヒー。奏汰くん、砂糖とミルクはここだから好きに調整してねー」

「ありがとうございます」



 麻耶さんからコーヒーを受け取ると、健吾さんの隣に麻耶さんは座った。



「まったく。ゆうなちゃんからも何とか言ってちょうだい。この子、なんでもかんでも経費で落とそうとするのよ? バイトのくせに」

「最低賃金で働いてるんだから文句言わないでほしいっすね。貧乏カメラマン先輩?」

「ムキーッ! 言わせておけばこの子は!」



 見た目と話し方のギャップが凄すぎる健吾さんと、自分の世界観を持った感じの麻耶さんのやり取りを見て、優菜が楽しそうに笑う。



「二人とも同じ大学でね、ケンさんは私の一個上の先輩で、麻耶は一個下の後輩だったのよ」

「それぞれ違うんですね。同い年かと思ってました」

「まあ、大学の一年なんてそこまで差はないからね」

「そっすねー。でも、優菜さんとは同年代でも通るっすけど、ケンさんは5は上で見ないと。初めて見たとき自分、何年も留年してるんだろうなーって思ったっすも」

「大袈裟ね、そこまで老けてないわよ。……老けてないわよね、優菜ちゃん?」

「ふふ、どうだろ」

「ちょっとぉ!」



 三人の関係性は、この数回の会話で良いのはわかった。

 というより優菜さんって大学に友達いたんだな。

 いや、性格もいいから友達がいるの当然だけど、今まで優菜さんの口から友達の話なんて一切出なかったから、ふと驚いた。 


 それからはコーヒーを飲みつつ、軽く談笑をした後。



「それじゃあ、そろそろ始めましょうか。まやちゃん、お願いね」

「はーい。それじゃあ、向こうに用意してるのでどうぞ」

「ええ、わかったわ。それじゃあ奏汰くん、行ってくるわね」



 そう言って優菜さんと麻耶さんは隣の部屋へと移動した。

 扉が閉められていて見えなかったもう一つの部屋。だが少しだけ開いた部屋の中には大量の衣装が見えた。

 マンションの一室だが、ここをスタジオと呼んだ理由がわかった。



「健吾さん、もしかして向こうの部屋って衣装部屋ですか?」

「ええ、そうよ。今まで着た衣装や、今日の撮影で着る衣装を置いた部屋。着替えや化粧も向こうの部屋でするの」

「そうなんですね。じゃあ、あの……」



 俺は隣の部屋に聞こえないよう、小さな声で「狂暴なオークに襲われるお姫様の恰好をするんですか?」と聞くと、大笑いされた。



「あはははっ、なにそれ。ゆうなちゃんにそんな設定の撮影するって言われたの?」

「え、まあ、はい」

「もう、騙されてるわよ、かなたちゃん」



 そして隣の部屋からも、クスクスという優菜さんの笑い声が聞こえる。



「なんだ、違うんですか……」

「ゆうなちゃんは肌を露出させすぎる恰好はNGなのよ。そんなことしたら、せっかく捕まえたゆうなちゃんに逃げられちゃう」

「そ、そうなんですか、なんだ……って、捕まえた? じゃあ、優菜さんが言っていた去年の冬に友達から誘われたって」

「それ、あたしのことよ。あの子、何度誘ってもOKしてくれなかったのよ」



 当時のことを思い出してか、健吾さんは見てわかるほど大きなため息をついた。





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