CON〜迷子の神様
CarrotDevil
1話 日常
―ピピッピ ピピッピ ピピッ…
閑散とした空気を小馬鹿にするようにうっとおしく鳴くアラームを止めて、床にそっと足をつける…
「つめたい」
リビングにムクッと座っている母親に、言葉になっていないおはようを伝えて顔を洗う。昨日深夜までネットに入り浸っていたせいで、クリームパンのように張っている自分がいる。鏡を見ずに歯を磨き、頭から水をかぶって寝癖を抑える。タルッタルゆるんだ体を起こしながら、パンを折り曲げて口に押し込んで…もう時間だ、行かないと。
/名前 蒼井 蓮(あおい れん)
紺狐学園高等学校、略してコン校に通う2年生。
表面上はエリート校、高貴で凛としている校風が評判なコン校だが、闇はそれなりに深い。一人一人が仮面を被り、それぞれ秘密を抱えている。裏では「仮面舞踏会」などと揶揄されているほどで、イジメやネット上のトラブルも絶えない。
俺も仮面を身に着けていたが、次第に嫌気がさしてどこかに放り投げた。過去のキリッとした面影は、もうない…/
「おはよう、ドロ面」
そうやって色々と考えていると、教室のドアを開けた瞬間、棘のようなノイズが刺さる。向こう側の窓に腰かけて、軽くしわを作りながらクワッと口角を上げた…烏丸 慎(からすま まこと)。
それを見た瞬間、顔の筋肉が痙攣するようにして笑顔を作る。そのまま流れるようにして自分の机の方へ…
「君にそっくりだったから置いといたよぉ〜。
あっ!お礼はいらないからね?」
その声に反応して向き直すと、たいして整ってもいない顔を突き出して嘲笑してくる烏丸がいる。綺麗に清掃された校舎のどこから取ってきたのだろうか…水を含んだ雑巾が、黒い液体を漏れ垂らしながら机の上に置かれていた。
「ありがとう…」
―烏丸はこの学校のトップであり、絶対だ…
知的でスマートな表の顔とは裏腹に、暴行、情報拡散、ゆすり、学業不正、それらの悪行を他数人と行っている。
誰も逆らえない…誰にも止められない…そんな烏丸に、俺は目をつけられてしまっていた。
雑巾を片付けた後、烏丸の視線がなくなったことを確認して、滑り込むように机に突っ伏す。自分でも嫌になる…なぜあそこであの言葉が出るの?…もう、自分の口すら味方してくれないのか。そうした事を独り考えながら、静かに目を閉じた…
―放課後
今日は珍しく烏丸が何もしてこなかった。朝の雑巾の件も、今までされてきた他の事と比べれば、全然大した事じゃない…ぜんぜん。
「よかった…」
憂鬱なはずの雨の中、下駄箱の前で安堵のため息をつき、傘をキュッと握る。体は冷え、ときおり身震いはするが、心は少しだけ温まった気がする…
―トスッ
重厚音…自分の肩からだった。肌と服の擦れる乾いた音…しかしそれは雨のせいか湿っていて、重くのしかかってくる音だった。
「ちょうどよかった〜。その傘…貸して?」
ジンワリと伝わる嫌な淀み
生暖かい空気とともに伝わる、ねっとりと耳に絡みつくような声
冷ややかにサラッとしている素手から伝わる、僭越な体温
―ギュイッ
それらを感じた瞬間、心が棒状に潰される。さらにそれが長く…長く…ミシミシと上下に引っ張られ伸ばされていくような感覚に、さらに胸が締め付けられる。痛む。呼吸が、あらく…
気づいた頃には、もう何もなかった。
布越しに伝わる雨のしょうげき…一つ一つ、体の隅々まで…傘は取られてしまっていたらしい。
―帰り道、曖昧な烏丸とのやり取りを思い出そうとする頭を殴り、振り払うように首を振る。必死に記憶を弾きながら、雨の世界に心を置いて一歩一歩、短い歩幅で歩いていく。心が悴んで、体毛の立つ感覚と、雨の日の匂いに包まれながら。
これからもこんな日々が続いていく…そんな事がふと頭をよぎると、カビの匂いで広がる鼻孔とともに、涙腺がジリジリと開き出した。そんな絶望の中…ふと涙を抑えようと上を向いた瞬間、その間の一瞬、目の中に、一人の少女が映った。そうして、落ちる雨とともにゆっくりと頭を下げ、その子を見据えた…
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お読みいただきありがとうございました!とりあえずはまだこの1話しか上げておりませんが、2025年11月1日00:00に、2話目も投稿する予定です!「CON」の世界観や、登場人物の色など、さらに広く鮮やかになると思いますので、よければそちらもお読みいただけると幸いです!
(2話目を投稿してから、高評価が20件以上ついたら、続編を執筆する予定です!初投稿なのでまだまだ色々と青い部分はあると思いますが、応援よろしくお願いします!)
2025年10月25日 CarrotDevil
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毎週 土曜日 00:00 予定は変更される可能性があります
CON〜迷子の神様 CarrotDevil @CarrotDevil
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